文字サイズ: |
目次
放射性試薬の受け取り~保管の流れ
①納品、受け取り
②製品の確認
③汚染の確認と段ボールの廃棄
④放射性試薬の保管、記録
放射性試薬の保管のポイント
①概要
②比放射能、放射能濃度
③温度
④再開封や凍結融解
⑤光
⑥空気
⑦その他
・放射性試薬は多くの場合、業者などからRI管理室など所定の場所に納品され、放射線安全管理担当者が受け取ります。受け取りの方法など、放射線安全管理担当者に確認をしておいてください。
・納品されてから長時間、受け取りや確認できないことがないようにスケジュール管理をします。
・納品場所と日付を放射線安全管理担当者に確認し受け取ります。
・長期の保管を避けるよう購入の予定を立て、納品後できるだけ早く製品を使用してください。
・指定された場所(フード内等)で、手袋を着用した後にセキュリティボトル(外容器)を取り出し、液が漏れていないかを目視で確認します。
・ピンセット等を用いて遮へい容器から放射性試薬の入ったバイアルを取り出し内容物を検査し、バイアルラベルと出荷伝票に記載されている化合物が注文したものと間違いないか確認します。
・多くの製品はセキュリティボトル(外容器)の中にバイアル(内容器)が入っています。
・取り出した遮へい容器以外に汚染がないこと(バックグラウンドレベルであること)を、サーベイメータで確認します。
・汚染の確認には、そのRIに適したサーベイメータを用いて測定します。
・早く動かしすぎると汚染を見逃す恐れがあるため、注意してください。
・段ボールは放射性物質であることを示す表示・マーク等のシール類を剥がしてから捨てます。
・施設の手順にしたがって保管し、記録をつけます。
・基本的には使用中、また使用後の記録と管理も実験者が責任を持って行います。
・容器にはRI名・放射能量(Bq)・年月日・氏名等を記入します。
・使用するまで適切な管理温度(常温、冷蔵、冷凍)で貯蔵施設(貯蔵室、貯蔵箱など)に保管します。
・放射性試薬は多くの場合、時間とともに分解するため、慎重な取扱いと適切な保管が必要です。
・放射性試薬を使用または保管する前に、データシートを確認してください(レビティ社の例はこちら)。
・データシートにはラベル位置、放射化学的純度、合成方法および最適な保管・取扱い方法などの情報が記載されています。
・放射性試薬の中でも、RI標識化合物は、その化合物の非標識体と比較して、安定性は大きく異なります。多くの場合、標識体は非標識体より分解しやすくなります。以下、RI標識化合物の分解様式を解説します(Table 1)。
・ライフサイエンス系の実験における、各RIの使用可能期間の目安は下記です(table 2)。これはあくまでも一般的なものです。目的のRI標識化合物がどのくらいの期間使用可能かは各実験内容によって判断してください。この期間を過ぎたRI標識化合物は、できるだけすみやかに正規の手順に従って廃棄してください。
分解様式 | 原因 | 抑制方法 |
一次(内的)分解 | RIの壊変 | なし |
一次(外的)分解 | 放射線による化合物分子の直接破壊 | RI標識化合物分子を分散させる |
二次分解 | ラジカルなどとの相互作用 | RI標識化合物分子を分散させる |
低温保存 | ||
ラジカルスカベンジャーの添加 | ||
化学的および微生物による分解 | 熱力学的不安定性 保存環境の不適正 |
低温保存 |
環境の適正化 |
Table 1. RI標識化合物の分解様式と抑制法
3H化合物 | 製造後1-6ヶ月以内 |
14C化合物 | 製造後3ヶ月-1年以内 |
32P化合物 | 製造後1-2週間以内 |
35S化合物 | 製造後2週間-2ヶ月以内 |
125I化合物 | 製造後2週間-1ヶ月以内 |
Table 2. RI標識化合物の使用期間の目安
・一次(外的)分解の抑制には、標識化合物分子の分散が効果的です。比放射能あるいは放射能濃度を低くすると、放射線とRI標識化合物分子の衝突による分解の確率を下げることができます。Table 3に、市販RI標識化合物の各RIにおける一般的な放射能濃度(*)を示しました。この放射能濃度のRI標識化合物は安定であると考えられています。
*放射能濃度にはBqの他に、Ci(キュリー; curie)を用いる場合があります。1 Ci = 3.7×1010Bq(=37GBq)です。
3H標識化合物 | 37 MBq/ml(1 mCi/ml) |
14C標識化合物 | 1.85 MBq/ml(50 μCi/ml) |
32P標識ヌクレオチド(高濃度水溶液) | 370 MBq/ml(10 mCi/ml) |
Table 3. 市販RI標識化合物の一般的な放射能濃度
・二次分解は低温保存により抑制できます。例えば、[35S] Cysteineは、-140℃で保存した場合の分解はごくわずかですが、-20℃では1週間で30 %以下まで放射化学的純度が低下します。
・施設に放射性試薬が到着したら、データシートに示されている温度で保存することが重要です。
・ただし、推奨されない場合には凍結することは避けましょう。その理由として、水溶液を液体窒素で急速凍結した場合と、冷凍庫に入れてゆっくり凍結した場合では、分子の集まり方が異なり、緩慢な場合にはクラスターを形成することが挙げられます。3Hが代表的ですが、弱β線を放出するRIの場合、このクラスター内で放射線のエネルギーの吸収が生じ、標識化合物の分解が促進されます。したがって、3H標識化合物について、液体窒素での急速凍結ができない場合には、-20℃のフリーザーで保存するよりも、クラスターを形成しない4℃のほうが安定です。
・バイアルを何度も開閉することや、凍結融解の繰り返しは避けましょう。
・放射性試薬を長期間にわたって使用する場合は、製品を複数のバイアルに分注し、必要になるまで冷蔵庫や冷凍庫で保管することをお勧めします。
・実用上可能な限り放射性試薬を暗所に保管することをお勧めします。
・特に感光性の放射性試薬は、内容物を光から保護する専用のバイアルで納品されます。
・酸素や湿気に敏感な特定の放射性試薬は、窒素やアルゴンなどの不活性ガスが封入された状態で納品されます。
・酸素や湿気は試薬の加水分解を早めるため、これらを除くことで品質が長く維持できます。
・長期間使用しない場合は、安定性を維持するために、ふたを閉じる前に不活性ガスを吹き付けることも有効です。
・二次分解は、また、放射線の作用によって生成するフリーラジカル類が集積したスプール(Spur)によっても起こります。ラジカルスカベンジャーを溶液に加えると分解を抑制することができます。スカベンジャーとしてはエタノールなどが用いられます。
・適切な間隔で標識化合物の純度を確認します。
・ヨウ素等でRI標識した後の溶液の管理方法については管理者に確認してください。
*分解してしまった場合
・保管中に分解すると純度が低下するので、必要な場合は標識化合物を再精製することが可能です。
・再精製を希望される場合は、日本アイソトープ協会にお問合せ下さい。