13. イメージングプレートの放射線管理への応用

山寺 亮
ラジオルミノグラフィ研究会

東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 放射線管理研究部

980-8578 仙台市青葉区荒巻字青葉

Key Words : Imaging Plate(IP), radiation protection, radioactivity distribution, radioactive contamination, radiation measurement


†Instruments for Radiation Measurement in Biosciences (Series 3 : Radioluminography), 13. Application of Imaging Plate for Radiation Control Works. Akira YAMADERA: Radiation Protection and Safety Control, Cyclotron and Radioisotope Center, Tohoku University, Aramaki-Aoba, Aoba-ku, Sendai-shi 980-8578, Japan.



1. は じ め に

イメージングプレート (IP) はX線撮影用の写真フィルムに代わる放射線画像測定器として富士写真フイルム社が開発した測定器であり, その優れた特徴を生かして, オートラジオグラフィ, 電子顕微鏡, X線回折などさまざまな分野で使われている。 当然放射線管理にも応用可能でさまざまな試みがなされている。 試みは大きく分けて, 放射線の分布測定に利用したものと, 放射線の線量強度の測定に応用したものとに分けることができる。 前者は高感度で取扱の容易な検出器としてすでに現場でも幅広く興味ある応用がされている。 後者の検出器も広範囲に応用が試みられているが, PSL 値の定量的評価にフェーディングの問題が大きなネックになっている。 フェーディングとは放射線によって形成された潜像が時間とともに退行する現象で, 温度が高くなるほど急激に大きくなる。 この現象は IP 測定の定量性を大きく損なわしめる。 ここでは筆者らの経験を含めて IP の放射線管理への応用例を紹介する。

2. 個人被ばく線量計への応用

γ,β 線用の個人被ばく線量計については筆者らが本誌などで発表した1)2)。 図 1 は IP の γ線に対するエネルギー特性を示す。 1MeV の γ線に対し 60keV の 線の感度は約 100 倍もあり, エネルギー特性は写真フィルムよりも悪い。 しかし各種のフィルタを使ってエネルギー特性を補償することは可能である。 IP の個人被ばく線量計をX線領域のみに限定すると, 従来のフィルムバッジの 500 倍以上の感度が得られる。 図 2 は 12 - 120keV のX線に対するエネルギーレスポンスを示しているが, 各種のフィルタの組合せで 12 - 120keV のX線に対し均一な応答特性が得られることが示されている3)。


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図 1 PSL値の γ線エネルギー依存性

左図はプラスチックフィルタを右図は金属フィルタを使用した場合


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図 2 PSL値の制動X線エネルギー依存性

×印は次式による応答関数 Rsum=0.3RAl-0.2RCu+0.9RCd ここで, RAl, RCu, および RCd はそれぞれ厚さ0.58mmのアルミニウム, 厚さ0.10mmの銅および厚さ1.00mmのカドミウムフィルタ上でのIP感度を示す。

 

 

問題は, IP にはフェーディングがあるので, 長期間の着用ができないことである。 しかし, きわめて高感度であることから, 短期間の被ばく線量測定器としての応用は期待できる。 たとえば, 入退域管理システムに組み込んで, IP バッジで入退域管理と被ばく管理を同時に行うことも可能である。 この場合には専用の IP リーダーが必要になるが, 3cm×4cm 程度の大きさの IP の読取装置としてすでに歯科診療用の Digora (Orion Corporation SOREDEX 社製)4)5) が 200 万円台で市販されており, これを組み込むことで安価に実用化されよう。

X線照射をしながら診断を行う医療現場では, 直接X線が当たる線量の高い場所と散乱線しか届かない線量の弱い場所があるが, このような環境中での測定にはダイナミックレンジの広い検出器が必要である。 医師や看護婦が局部的にどの程度の被ばくを受け, それが胸に着用した既存の線量計でどの程度正しく評価されているかなどの調査研究には IP は最適の線量計であろう。 非密封放射性同位元素の取扱作業で指先, 手など体表面の被ばく線量の測定に応用した例も報告されている6)。

3. スミヤ濾紙の測定

スミヤ試料は一度に数十-数百個発生する。 これを液体シンチレーション測定器や GM 管を用いた自動測定器にかけると, 1 個の測定時間は 5 分程度でも, 全試料では日単位の時間が必要になる。 IP を用いた測定では, たとえば BASⅢを用いると 1 枚で同時に 50 個のスミヤ試料の測定が可能で, IP を n 枚用意すれば同時に 50×n 個の試料の測定ができるわけである。 1 回の測定時間を長くとることによって液体シンチレーションカウンタよりはるかに高感度の測定が可能になる。 この方法では核種分析はできないが, 汚染が発見された試料だけ他の測定手段で核種分析をする。 汚染は高い頻度で発生するわけではないので, この方法で十分対応できる。

IP を数枚重ねてその上にスミヤ試料を置いて測定し, PSL 値の減少傾向から核種の同定をする方法も提案されている7)-9)20)。 図 3 は PSL 値と重ね IP の枚数との関係を示したものであるが, 事業所で頻繁に使用している RI について, あらかじめ図 3 の関係を求めておけば, 核種の同定も容易にできる。


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図 3 スミヤ試料のIPの重ね測定の傾向

液体シンチレーション測定では測定後の処理, たとえばバイアルの洗浄や有機廃液の焼却にも多大の労力と経費が必要で, これらが解消されるだけでも大きなメリットがある。 われわれの事業所でもスミヤ試料の IP による測定を日常の管理業務に適用できるか検討中であるが, 問題となるのはトリチウムの測定である10)。 トリチウムの測定では表面カバーのない TR タイプの IP が必要で, TR は表面が汚染すると除染できないので使い捨てせざるを得ない。 経済的に成り立つかの判断が必要である。 スミヤ試料のパソコンによる自動測定も進んでいる11)。 多数の試料を並べて照射したときにはクロストークの問題が発生する9)12)13)。 スミヤ試料のほとんどは放射能汚染のないバックグラウンドレベルの試料である。 近くに汚染のある試料があるとその影響を受けやすい。γ 線放射核種や 32P などのようにエネルギーの高いβ 線放射核種で汚染した試料の近傍試料は再評価を必要とする。

4. 汚染状況の把握

汚染の測定は GM サーベイメータが広く使われる。 しかし, GM 管は広く使われている広窓型でその面積が 20cm2 あり, 点状の汚染なのか広がりをもった汚染なのかなどの面の情報は得られにくい。 IP を使用すると汚染面に数分間乗せておくだけで汚染の位置や広がりなど二次元の情報が得られる。 これによってその汚染に適した除染方法を選んで安全で確実に除染する事が可能となる。 筆者らの事業所の PET で微粒子状の 68Ge が散逸する事故が起こった。 汚染物はセラミック粒子なのでサーベイメータで汚染箇所を探し粘着テープに付けて, 1 箇所を除いて容易に回収することができた。 しかし, ガントリーに入り込んだ粒子は粘着テープには付着してくれなかった。 汚染は 150ppm 程度だが, 放射線検出器に囲まれたガントリー内での汚染である。 高価で, 高い精度で調整された装置なので大がかりな分解除染作業はさけたいこともあった。 そこで IP で汚染箇所を特定することにした。 図 4 は汚染箇所に半日 IP を置いたときの放射線分布である。 同じ場所を写した図 5 の写真を見ながら説明すると, ①, ②および③は鉛のコリメータ, ④, ⑤および⑥はコリメータの間の発ポリエチレン保護層だが, この下に多数の BGO 検出器がリング状に置かれている。 汚染部分は下から 2 番目保護層の発泡ポリエチレンの泡の中にあった。 写真では汚染部が黒く広がりをもって見えるが, 同心円上に分布していることから, 点状の汚染と判定し (68Ga の β線の飛程の分, 像がぼやける) 中心点を割り出した。 IP 像から汚染の位置を特定し, 汚染が紛失しないように接着剤で固定した後カッターナイフで発泡ポリエチレンを広さ 5mm×5mm 深さ 3mm に切断した。 汚染はその切断片から検出され, PET 本体をほとんど傷つけることなく汚染を 100% 除去できた。 このように, IP は汚染箇所を特定するには便利な二次元検出器で, 高価な装置, 通常の湿式の除染が不可能な装置や施設などの除染方法を考えるに最適の武器である7)8)14)-16)。

話が脇道にそれるが, 図 4 でもう一つ注目してほしいのは, 遮蔽体の鉛の影⑦がはっきりと写っていることである。 天然の鉛には 238U の壊変系列の 210Pb が含まれている。 鉛の産地によって 210Pb の含有量は異なるらしいが, その半減期が22.3年と長く, なかなか減衰しないのが困ったものである。 IP によるとこのような極低レベルの自然放射線の測定も可能になるのである。


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図 4 IPで測定したガントリー内側表面の放射線画像

左上の黒い部分が汚染箇所, 番号の説明は図 5 参照。


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図 5 ガントリー内側の写真

①, ②および③は鉛コリメータ, ④, ⑤および⑥は発ポリエチレン保護膜, ⑦は鉛体。

 

5. 微弱放射性溶液の測定

貯留槽や希釈槽の放射能濃度測定で最もよく使われる方法は蒸発乾固法で, JIS 規格 (Z4513) にも決められている。 この方法では測定試料を作るのに数時間を必要とし, 特に濃縮の最終段階では, 試料皿に採取する前に乾固してしまわないよう細心の注意が必要となる。

筆者らは IP を用いて排水をそのまま高感度で測定する方法を開発した。 図 6 は排水測定アクリル容器の平面図である。 内寸は 17×37×深さ 1cm (内容積 0.63L) で上面のアクリル版の厚さは 0.1cm, その上に各種厚さのアクリル板(フィルタNo.1 - No.5)および鉛板 (フィルタ No. 6 - 8) が張ってある。 IP をアクリル容器の上に置いて, フィルタを通過してきた放射線分布を測定する。 自然の放射線を遮蔽するために, アクリル容器は厚さ 1cm の鉄容器に入れられ, さらに厚さ 5cm の鉛ブロックでカバーされている。 図 7 は各フィルタの PSL 密度をフィルタ No. 2 における PSL 密度で規格化して, 核種ごとにプロットしたものであるが, このグラフのパターンから核種を同定することができる。 表 1 はフィルタ No. 2 の PSL 密度から溶液中の放射性核種の検出限界を算出したものであるが, いずれの核種も法令で定めた排水中の放射能濃度を監視するに十分の感度を有している。

われわれの施設では, 1998年 4 月から排水の測定にこの方法を採用し蒸発乾固法は止めた。 これによって大幅な省力化が達成できた。 この方法による不都合は発生していない。


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図 6 放射性排水測定アクリル容器

上 : 断面図  下 : 平面図

 


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図 7 PSL値のフィルタ依存性

フィルタNo.2 のPSL密度に対する比を核種ごとにプロットした。 No.1 No.5のフィルタのPSL密度比の減少傾向から 核種を同定。 No. 2 No. 6 No. 8のPSL密度比の減少傾向から 核種を同定。 最も面積の広いNo. 2 フィルタのPSL密度から放射能濃度を計算。


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表 1 放射性排液の検出感度

 

6. そ の 他

この他にも IP を用いた放射線管理応用が考えられようが, 応用を妨げる一番のネックはフェーディングが大きいことである。 フェーディング成分には少なくとも四つの成分があり, 第 1 の成分は数分の半減期, 第 4 成分は 1 年以上の半減期で通常の使用状態では無視することができるが, 第 2 と第 3 の成分はわれわれの生活温度付近で発生し, 温度が上昇するに従って急激に大きくなり, IP の定量性に著しい影響を与える。 いろいろなフェーディング関数が提案されている2)17)18)がデータがばらばらでよい一致を見ていない。 この原因を考え, 筆者らは温度管理を精度高く行い UR タイプ IP を用いて 60Co の γ線に対しては次の実験式を提案した19)。

ここで, t と K はそれぞれ照射後の経過時間と温度 (絶対温度) を, (PSL)t, K と (PSL)0, K は照射後 t 時間後の PSL 値と照射直後の PSL 値を示す。 式の第 1 項と第 2 項はそれぞれ第 2 成分と第 3 成分を示すが, それらの成分比は放射線の種類によって異なっていて,α 線放射体の場合には第 2 成分の比が大きくなることがわかっている。 この式によって IP が放置された温度と時間がわかっていれば, PSL 値を補正することができ, IP による放射線量の定量的評価, 値の相互比較も可能になった。 最近開発された MS 型 IP はフェーディング特性が若干改良されているが, 積分型検出器として長期間使用するにはまだ十分とはいえない。 できれば誤差の原因となるフェーディングの補正はしたくない。 富士写真フイルム社にはさらなる研究開発を期待する。

謝  辞

本稿の執筆の機会を与えていただいたアイソトープトレーサ研究用機器専門委員会委員長栗原紀夫先生に感謝します。



文献

1) 山寺 亮: FILM BADGE NEWS, 4, No 210 (1994)
2) 山寺 亮, 金 珠: 宮田孝元, 中村尚司: Radioisotopes, 42, (12), 676 (1993)
3) Taniguchi, S. et al.: International Conference on Radiation Dosimetry and Safety, Taipei, Taiwan, 92 (1997)
4) 西村光輔, 白勢康夫, 米田仗二, 佐鳥 茂, 飯塚 勤, 鹿島 勇: 日本歯科評論, 652, 183 (1997)
5) 徳岡 修, 西山秀昌, 渕端 孟: 日本歯科評論, 676, 63 (1999)
6) 野川憲夫, 巻出義紘, 江藤雅弘: 第 34 回理工学における同位元素研究発表会要旨集, 24 (1997)
7) 百島則幸, 杉原真司, 進野 勇, 仁田純一, 前田米蔵, 松岡信明, 黄 金旺: Radioisotopes, 44, 389 (1995)
8) Mori,C.,Matsumura,A.,Suzuki,T.,Miyaha-