研究者紹介 No.54

研究者紹介
更新日:2025年1月31日(所属・役職等は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

学生時代に講義で放射性薬剤の開発研究に興味を持ちました。薬剤の体の中の動きを意図した通りに制御するための合理的な薬剤開発戦略、板書された化学構造式の中にそんな研究者のアイディアが詰まっていることに感動を覚えました。普段は講義室の一番後ろで講義を聞いていましたが、その講義だけは最前列で受講したことを覚えています。この講義がきっかけで、放射性薬剤の開発研究の道に進むことを決めました。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

幼い頃より、宝くじを当てて趣味で仕事をしたいと語るほど仕事大好きな父を見て育ってきたため、私も心の底から楽しんで取り組めるような仕事をしたいと考えていました。幸いなことに、放射性薬剤の開発研究に出会え、正に自分が求めていた仕事だと研究室生活の中で確信できたので、不安はほとんどありませんでした。私の場合はさらに特殊で、先にアカデミックの道に進んでいた親友が急逝され、彼の分までこの分野ででかい仕事をやってやろうという覚悟が生じたというのも大きかったと思います。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

放射性薬剤を標的とするがんに送達することができれば、そこから放出される放射線を利用して、がんの診断や治療が可能となります。一方で、がん以外の正常組織に集積してしまうと、診断精度の低下や副作用につながってしまいます。私の研究は放射性薬剤の開発研究であり、特にがん以外の部位に集まらないような安全な放射性薬剤の開発に重きをおいています。うまくいかないことも多々ありますが、だからこそ生体内で薬剤が狙った通りの挙動を示した時に得られる達成感はひとしおです。

あなたの研究人生において、影響を与えた方を教えてください

出身研究室でもあり、現所属でもある研究室の前教授の荒野泰先生と現教授の上原知也先生です。荒野先生の講義がきっかけで、この研究分野に進むことになりました。非常に多くのことを学びましたが、特に荒野先生から受け継いだ研究の哲学は現在の研究者としての自分の柱になっています。研究室配属当時、楽しんで研究に取り組んでいる上原先生の姿が非常に印象的でした。現在も研究を楽しみ、困難を飄々と切り抜けていく姿は私にとっての憧れであり、理想です。

今後の目標、展望を教えてください

近年、α線放出核種を利用する核医学治療の高い治療効果に注目が集まっています。研究内容に記載した通り、最近α線放出核種の一つである211Atの創薬研究に有用な新規標識基盤技術を開発しました。現在、この技術を応用した薬剤開発に取り組んでいます。薬学の研究者なので、常々自分の研究を実際に医薬品開発につなげられればと思っていましたが、目標というより夢に近いものでした。しかし、211At創薬研究に関わることで、自分の研究が臨床応用につながる可能性を実感できるようになりました。今では211Atの放射性医薬品を開発し、患者さんに貢献することを明確な目標としています。このため、実際に臨床で求められるような薬剤開発を意識するようになりました。

学生へメッセージ

私は放射性薬剤の開発研究に携わっていますが、アイソトープを利用する研究分野は非常に多岐にわたります。研究活動を行ううえで様々な分野の研究者と交流する機会がありますが、皆さん非常にやりがいを感じて研究に打ち込んでいるのが伝わってきます。学生さんにも、自分が楽しいと思える研究分野を見つけて、とことん夢中になってもらいたいと思います。今は興味がない学生さんも、知らないだけで面白い研究を見つけられるかもしれません。ぜひ一度、アイソトープ研究に触れてみてください。


鈴木 博元(すずき ひろゆき)
専門
放射性薬剤、分子イメージング
略歴
2013年千葉大学大学院医学薬学府後期3年博士課程創薬生命科学専攻修了、2013年日本原子力研究開発機構 博士研究員を経て、2015年より現職
HP
https://www.p.chiba-u.jp/lab/housha/index.html