研究者紹介 No.52

研究者紹介
更新日:2024年11月29日(所属・役職等は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

大学の進路を決める際、新エネルギー関連の研究に興味を持ち、九州大学工学部エネルギー科学科に入学しました。大学の原子核物理学や量子力学の講義を通じて放射線に関心を持つようになり、学部4年時には、放射線計測や加速器開発の研究を行っている研究室に所属しました。博士課程在籍中に米国・ロスアラモス国立研究所での短期留学を通じて、多くの魅力的な研究者に出会い、私もこのような研究者になりたいという憧れを強く抱き、研究者を志すようになりました。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

修士課程後の進路を選択する際に、博士課程への進学に対する不安がありました。しかし幸いにも、研究室内外の先輩方の励ましやサポートのおかげで、その不安を克服することができました。研究職は、ある程度の自由度と裁量をもって取り組むことができる魅力的な職種です。ただし、研究職は多くの職種のうちの一つに過ぎず、特別な能力が求められるわけではありません。研究職を目指す学生の皆さんには、気負わずにこの道に挑戦してほしいと思います。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

J-PARCでは、高エネルギーの陽子ビームを利用した多様な実験が行われています。陽子ビームが物質に衝突すると、核反応が発生し、さまざまな放射線や放射性同位体(ラジオアイソトープ)が発生します。これらの生成量を正確に予測するため、京都大学のFFAG加速器やJ-PARCの陽子ビームを用いた実験や予測モデルの構築を行っています。世界初のデータを取得したり、従来予測が困難だった物理量をモデルを駆使して予測できたときには、大きな喜びを感じます。近年では、機械学習をはじめとするAI技術を活用し、予測精度のさらなる向上を目指した研究も進めています。

研究を行う上で大事にしていること(モットー)を教えてください

これまで、知的好奇心や興味を大切にしながら研究を行ってきましたが、人生が意外と短いことに気づくにつれ、自分の研究が生きているうちに社会の役に立つかどうかを強く意識するようになりました。現在では、研究成果の社会実装を目標に、目的指向で研究に取り組むことを心がけています。

今までで研究をしていて苦しかったこと、辛かったことを教えてください

研究していて辛いと感じたことはありませんが、学生時代にフランスで行われた国際会議の滞在中に、ムール貝にあたったことがあります。発表は無事に終えましたが、その後はお腹を壊し続け、会議に全く集中できませんでした。さらに、その後の留学中に滞在していたベルギーでもムール貝にあたり、そこでカキ・ムール貝アレルギーがあることを知りました。海外での食事にはくれぐれも気を付けてください。

学生へメッセージ

核反応で発生する粒子や放射線を用いた研究は、非常に多岐にわたる分野で行われています。例えばJ-PARCでは、基礎物理、原子力、材料開発、加速器開発など、様々なバックグラウンドを持つ研究者や技術者が、核反応から生み出される中性子、重イオン、ミューオン、ニュートリノなどの粒子を利用して、日々研究を進めています。半導体開発の分野では、太陽や銀河由来の宇宙線による半導体機器のソフトエラー対策が近年重要な課題となっています。また、原子力発電所から発生する放射性廃棄物には、多くの放射性同位体が含まれており、廃棄物の安全な処分法や将来的な利用の可能性を探ることも大切です。新しい研究分野の開拓や人類社会における課題解決に向けて、ともに取り組んでくれる研究者が増えることを願っています。


岩元 大樹(いわもと ひろき)
専門
原子核工学、核変換、原子核物理、原子炉物理
略歴
2010年九州大学大学院工学府エネルギー量子工学専攻にて博士号(工学)取得、同年日本原子力研究開発機構研究員、2016年ベルギー原子力研究センター(SCK CEN)に1年間留学(客員研究員)、2019年より研究副主幹を経て、2023年より現職(J-PARCセンター兼務)
HP
https://nsec.jaea.go.jp