研究者紹介 No.51

研究者紹介
更新日:2024年10月25日(所属・役職等は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

学部・修士課程では環境化学や触媒化学に関する研究に携わっていましたが、研究が進むにつれ、学んだ知識や経験が原子力分野にも活かせると実感したので、博士課程ではウラン化学を専門とする研究室に所属しました。放射性同位体は自ら放つ放射線で核種の種類と濃度などの情報を我々に常に提供してくれるので、とても便利なツールの一つとして、安定同位体を用いたその他の手法と同様にうまく使い分けをしながら使用していました。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

修士課程在学中に就職活動を行いましたが、働きたいと思える企業が見つけられなかったので、博士課程に進学することにしました。学位取得後の進路としても企業への就職はあまり考えていませんでした。私の場合、終身雇用の研究職ポストを獲得できるかどうかの問題よりも、個人ではどうにもならない企業の倒産やリストラの方が大きな不安要素となっていましたし、1から10を組み立てる仕事よりも0から1を生み出す仕事の方が自分に合っていることはわかっていました。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

私はオゾン化学、核種分離化学、同位体分離化学に関連する研究を行っています。オゾン化学研究では、オゾン化学の学術的理解を深めるため、オゾンと放射性同位体を含む有機化合物との間の反応機構について調べています(Fig. 1)。一方、分離化学研究では、新しい原子力・核融合工学分野を開拓するため、環境水中の放射性同位体のみを回収するための技術開発(Fig. 2)や安定同位体(リチウムやモリブデンなど)の濃縮効率因子の体系化に取り組んでいます。最近では、オゾン化学と分離化学を組み合せて放射性同位体汚染土壌の完全除染にもチャレンジしています。

研究を行う上で大事にしていること(モットー)を教えてください

専攻設立と同時に赴任した長岡技術科学大学では、当初任期付教員であったため、校費の支給はなく、(幸いにもある親切な先生にすぐに譲ってもらえましたが、)机や椅子さえも自分で準備する必要がありました。一方で、ゼロからいろいろと自分たちで準備できる状況でもありましたので、赴任後にお知り合いになった先生方と国際共同研究を行ったり、得られた知見をすぐに教育活動の場に活かしたり、さらには定年退職間近の先生方の実験設備を学生さんと車で引き取りに行ったりと自由に仕事ができました。九州大学への異動のため、引越しの準備をしているときには自分のいる環境が人と物で溢れていることに驚きました。発想の転換を心掛けながら、あるときには周りの方々を巻き込んだり、巻き込まれたりといった教育研究環境の構築が大切であることを学びました。

研究の息抜きにしていることを教えてください

仕事量が多すぎて締め切りに間に合いそうにない場合においても、少しの時間ですが進行中の研究について深く考える必要がなくなるので、研究のちょっとした合間の息抜きとしては、「わざわざ離れた自販機まで散歩がてらに出掛け、近くにあるベンチなどでコーヒーを飲みながら一息つくこと」、「(管理区域内滞在時の空いた時間には、)備品の整理整頓や機器のメンテナンスをすること」、「親しい教職員の方々と世間話をすること」などはよくやっていました。その他の息抜きも考案中ですが、現在の職場も前職と環境が似ているので同じような息抜きしています。

今後の目標、展望を教えてください

現在、次の5つの目標を掲げて教育研究活動を進めたいと考えています。
1.オゾン化学に関する研究
⇒2025年度末までにオゾンとフミン質、あるいは粘土層間との間の化学現象を解明すること
2.核種分離化学に関する研究
⇒2026年度末までに放射性物質汚染土壌を対象としたオゾンとイオン交換反応を組み合わせた除染技術の開発に目途をつけること
3.同位体分離化学に関する研究
⇒できれば研究者を引退するまでに陽イオン交換樹脂と陽イオンとの間の同位体効果に関係する数式に新しい化学的な項を加えること
4.放射化学に関する教育
⇒研究者を引退するまでの間、本学の学生、全国の高専生、他大学の学生に対して放射化学に関する知識や知見を教授し続けること
5.アイソトープや放射線に関する教育
⇒同じく引退するまでの間、本学の学生、全国の高専生、他大学の学生、小学校、中学校、高校などの教職員や生徒、保護者を含む一般の方々に対して原子力発電所、放射性同位体及び放射線に関する知識や知見を提供し続けるための出前授業などを定期的に実施すること

学生へメッセージ

多くの同位体の基本的な物理的および化学的性質、あるいは放射線の振る舞いに関する情報を容易に入手できる時代となりました。ご自身の研究に同位体や放射線が役に立つのであれば、その他の手法や機器と同じように大いにご活用いただければと思います(私も便利なツールの一つとして使用しています)。過度な放射線被ばくから皆さんを防護するための仕組み(健康診断、教育訓練、被ばく線量管理など)は十分に整備されていますし、定期的に見直しも図られています。


立花 優(たちばな ゆう)
専門
オゾン化学、核種分離化学、同位体分離化学
略歴
2012年 東京工業大学大学院理工学研究科原子核工学専攻にて学位(博士(工学))を取得後、2012年 長岡技術科学大学大学院工学研究科原子力システム安全工学専攻特任助教、2015年 同専攻の助教、2022年 同大学院工学専攻量子原子力統合工学分野助教を経て、2024年より現職に至る