研究者紹介 No.49

研究者紹介
更新日:2024年8月30日(所属・役職等は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

幼いころから羊飼いにあこがれていました。何ものにもしばられない自由な生き方がうらやましかったんだと思います。しかし羊飼いへの道を踏み出せないまま時が過ぎ、大学4年で研究室に配属され研究の道に入りました。卒論のテーマは速い中性子捕獲反応(r-process)による元素合成の理論計算でした。教科書を読むのがメインの勉強と違って、自分のオリジナリティを出せる研究が肌に合っており、大学院進学を決めました。進学先選びで迷っている時、ちょうどノーベル賞を受賞した小柴昌俊先生の講演会を聞く機会があり、感銘を受けて神岡のニュートリノ研究を選びました。それ以来、約20年間、放射線検出器を用いた素粒子実験に携わっています。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

実は大学4年のとき、少しだけ就職活動をしたことがあります。平服でお越しくださいという企業説明会に、周りが真っ黒なスーツばかりの中を真っ赤なパーカーで乗り込み、浮きまくったことを覚えています。自分には就職して社会に出るのは不可能だと思い知り、大学院進学一本に絞りました。今、大学で指導学生の進路相談などにも乗っていますが、全く偉そうなことは言えないので困っています。

学生の頃、熱中していたことを教えてください

アウトドアのサークルに所属して、春夏はキャンプ、冬はスノボとか、長期休みのたびに旅行をしてました。青春18きっぷを使って鈍行で屋久島や北海道に行きましたね。屋久島の海や空はすごく鮮やかな青さで記憶に焼き付いています。費用捻出のため普段はバイトを掛け持ちしていて、家電量販店で携帯電話の販売とか、野球場の警備員、家庭教師、スキー場で住み込みのバイトなんかもやってました。でも結局、稼いだ端から競馬や飲み会で消えてしまって、なかなか貯まりませんでしたが。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

「ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊」と呼ばれる、特殊な原子核崩壊現象の研究をしています。もしこれが発見されると、ニュートリノという素粒子の性質に対する理解が劇的に進み、この宇宙が(反物質ではなく)物質だけで作られている理由が判明します。この現象は未発見で、仮に起こったとしてもその半減期は1026年より長いことが分かっています。これは宇宙年齢の1010年と比較してもはるかに長く、非常に稀な現象であることが分かります。そのためノイズとなる背景事象を可能な限り除去して実験をする必要があります。私はCaF2結晶を用いたCANDLES実験で、48Caの二重ベータ崩壊を探しています。詳細はRADIOISOTOPES誌に寄稿した記事をご参照頂ければと思います。宇宙の物質起源という人類未踏の謎に挑むことは非常にやりがいがあります。

研究を行う上で大事にしていること(モットー)を教えてください

"It's now or never" 日本語にすると「いつやるの?今でしょ」ですかね。チャンスを逃さないように、忙しくても頼まれた仕事は可能な限り引き受けるようにしたり、メールの返信も時間のかかるもの以外は読んだその場で返信するように心がけています。
もう一つ、最近は「研究のしっぽをつかむな、頭をつかめ」というのも意識しています。みんなやってる流行りの研究分野に後から乗っかるより、まだ誰もやっていない研究を最初にやれという意味です。最初に道を切り開く人は多くの失敗もします。周りから「あいつ失敗ばっかしてるな」という目で見られても気にしないようにしています。

あなたの研究人生において、影響を与えた方を教えてください

数えきれないほど大勢います。大学院の指導教員だった東大の中畑雅行先生や、カナダのポスドク時代お世話になったクイーンズ大のArt McDonald先生、Mark Chen先生、二重ベータ崩壊の研究に引き込んでくれた大阪大の岸本忠史先生、他にも大勢います。
でも、もし1人だけ挙げるなら、小柴昌俊先生でしょうか。私が大学2年生の時に小柴先生がノーベル賞を受賞されました。その後、何気なく参加した講演会で、小柴先生は難しい数式などは使わず、非常に分かりやすく、かつ魅力的にニュートリノの研究についてお話してくれました。これなら自分でも出来そうだと思わせてくれました。この出会いがなければ、今私は全く別の人生を歩んでいることでしょう。

研究の息抜きにしていることを教えてください

子供と遊んでいます。虫を捕まえたり、庭でプールや花火をしたり。子供がもう少し大きくなったら、サイクリングとか山登りとか、体を動かす趣味を始めたいです。

学生へメッセージ

羊飼いを目指していた私ですが、紆余曲折の末、研究者になりました。しかし、今改めて考えてみると、研究者としての生活は、以前求めていた自由で牧歌的な羊飼いの生活に通じるところがあると気づきました。人生は選択の連続です。でも、どの道を進むかより、進んだ道でどう生きるかがもっと重要なのかもしれません。好きな研究を極めようとする今の職業は、とてもやりがいを感じています。みなさんがこの先どんな道を選んだとしても、今この時を大切に、進んだ道で人生を充実させてください。


飯田 崇史(いいだ たかし)
専門
素粒子実験物理学、主にニュートリノの研究
略歴
2010年3月 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了 博士(理学)、2010年5月-2013年3月 カナダ・クイーンズ大学 博士研究員、2013年4月-2017年3月 大阪大学核物理研究センター 特任助教を経て、2017年4月より現職に至る
HP
https://hep-www.px.tsukuba.ac.jp/
https://grad.physics.tsukuba.ac.jp/