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放射線に興味を持ったのは、学部卒業直前である2011年に起きた福島第一原子力発電所事故がきっかけです。大学に入学した当初は、原子核・素粒子といった小さなスケールの世界に興味があり、原子核理論研究室への大学院進学を決めていました。しかし事故を受けて、放射性物質による汚染という大きな社会問題に取り組みたいと感じ、修士卒業後原子力機構に入所し、放射線に関する研究をスタートしました。
学部時代はアカデミックなポストへの憧れがありましたが、大学院に入って理論研究で研究者を目指すことの難しさを実感しました。また当時は、就職氷河期から十分回復しておらず、理系の博士への風当たりが厳しい時期でした。そのため修士卒業後、国の研究機関で研究職として就職する道を選びました。その後社会人になってから博士号を取得し、現在の研究を進めています。
私は、地下に広がる汚染分布の評価手法を開発しています。放射性物質等によって地下水が汚染した場合、適切な影響評価・除染のためには、汚染の広がりの把握が必須です。汚染がいつどの程度放出したか(放出量)が明らかなら、汚染分布は地下水流動・物質移行シミュレーションで評価できますが、事故時にはこの情報は分かりません。一方流れが一定なら、汚染濃度と放出量は線形関係にあります。本手法はこれを利用することで、放出量がわからない事故時にも、汚染分布とその不確かさを3次元で可視化することが可能です。これまでに実際の汚染事例での検証を進めており、一般の地下水汚染に加え、福島第一原子力発電所廃炉への貢献に向けて研究に取り組んでいます。
意気揚々と論文を投稿して、査読で厳しいコメントが来るとやはり落ち込みます。2年前投稿した論文では、これまで検討していなかった点を新たに考慮するようコメントがあり、解析を1からやり直すことに・・・しかしめげずにコードを書き直していたら、思ったよりもスムーズに解決し、当初より良い成果が出せました。すんなり通った論文よりも、苦労した論文の方が結果的に良く書けているケースもあるのではと感じます。
修士・博士課程の恩師である、原子核理論研究室の萩野浩一先生、地殻環境工学講座の小池克明先生です。学生達がやっている様々な研究を深く理解し、忙しい中でもスピーディーかつ適切に指導しながら、自分の研究まで進める姿は、真似したくてもできるものではありません。また職場の上司や先輩方には、入所後右も左もわからない中で、研究だけでなく社会人として多くの指導をして頂きました。将来自分が教える立場になったときに、こうした方々の姿勢を見習いたいと強く感じます。
私は現在、福島第一原子力発電所の廃炉に関する研究(地下汚染)に加え、放射性廃棄物の埋設処分(地形変化・地下水流動解析)の研究に取り組んでいます。特に地下水に関する研究(地下の水理地質構造の推定)は、廃炉と処分で通ずる点があり、同時に研究を進めることで新しい知見を提供したいと考えています。
アイソトープや放射線を使った研究は、非常に幅広い分野で行われています。私自身に関連した分野に限っても、トレーサー試験(河川、地下水、海洋など)、年代測定(地下水、気候変遷、地形の堆積/侵食量など)、イメージング(非破壊検査など)と、多岐にわたります。
現在既に研究している方はもちろん、そうでない方も将来アイソトープ・放射線を活用することで、新しい発見が得られることを期待しています。