研究者紹介 No.42

研究者紹介
更新日:2024年2月2日(所属・役職等は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

大学の進路を決めるとき、新型原子炉、核融合炉、燃料電池などの新エネルギー関連の研究が注目されていましたので、九州大学工学部エネルギー科学へ入学しました。学部2年生時の少人数の課題ゼミを選択した際、加速器や放射線計測の研究に触れる機会があり、3年時に加速器開発、放射線計測研究を行っていた研究室に入りました。そこで当時の放射線医学総合研究所のHIMACを利用した研究を行っていくうちに、放射線治療などの医学物理の世界を知り、医学物理分野の研究者を目指すことなりました。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

高校生くらいのころから「大学の教授になりたい」という漠然とした夢があり、そのためには博士号取得や研究実績が必須だと知っていたので、そのための進路を選択してきました。ただ修士2年生の初めのころ少し信念がぶれて就職活動をしましたが、その際に多くの先輩方に助言をいただき、夢をあきらめることなく現在に至ることができています。研究職は一般的に採用期間が不安定なことが多く、「棘の道」などと言われることがありますが、一方で自分のやりたいことを選択していくことができる自由度の高い職種だと思います。この自由度の高さを生かして、新しいことにいろいろ挑戦していきたいと思います。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

医療放射線における患者被ばく線量の評価や線量測定に関する研究を行っています。例えばCT撮影時に患者の被ばく線量の評価に関しては、CT装置から発生するX線の線質・分布の実測、計算用人体ファントムとモンテカルロシミュレーションを用いた臓器被ばく線量の計算などを行うことで、誰もが容易にCT撮影時の被ばく線量評価が行えるWebシステムWAZA-ARIを開発し、公開しています。このように、放射線計測、シミュレーション、解析、システム開発など幅広い研究開発を行い、その成果を多くの方に役立ててもらえるところが医学物理の面白さだと思います。


図1.モンテカルロシミュレーションによる体内の放射線挙動計算の例
図2.CT撮影時の被ばく線量評価WebシステムWAZA-ARI

研究を行う上で大事にしていること(モットー)を教えてください

どんな研究も新しい発見があり、それが世の中を便利にし、人の健康や幸せに繋がるものだと信じています。しかし、いろいろ研究をしている中で、基礎的な研究や調査、繰り返しの作業を行っているとたまに「これが一体何に役立つのだろう?」とか「このデータにより本当に何か解決するのだろうか?」などと思ってしまうことがあります。そんなときは一度立ち止まり、研究背景を再度振り返り、最終的にどのような結果となれば、今の研究が役立つのだろうという観点から道筋を再確認することにしています。このようにすると、無駄な作業の省略やより効率の良い方法・手順をひらめくことがあります。研究者は「研究をすること」が仕事ではなく、研究によって「人々の役に立つこと」が仕事だと思っています。

今後の目標、展望を教えてください

現在は医療被ばくのうち、放射線診断の被ばくについて主に研究を行っていますが、今後は放射線治療時の被ばくについても研究を行っていくことを目指しています。 また、現在は国立の研究所に勤めていますが、将来的にはどこかの大学で研究室をもつことが夢です。自分が大学生のときに所属していた研究室のような勉強・研究・遊びの全てが楽しめるような賑やかで仲の良い研究室を持てればと思っています。

学生へメッセージ

福島第一原子力発電所の事故以降、放射線に対する国民の意識が変わり、放射線や放射性同位元素は良い意味・悪い意味で以前より注目を浴びています。放射線診断、放射線治療は有用な放射線利用の1つであり、身近で非常に多くの人が利用するものです。我々研究者はこのような医療放射線が安全に利用されていることをアピールし、今後ますます人々の健康に役立つための放射線、放射性同位元素の応用研究と研究開発を行っていくことが重要だと感じています。一緒にこの研究分野を目指してくれる研究者が増えることを願っております。


古場 裕介(こば ゆうすけ)
専門
放射線計測、線量評価、医療被ばく、放射線防護
略歴
2010年九州大学大学院工学府エネルギー量子工学専攻にて博士(工学)取得、同年放射線医学総合研究所研究員、2016年量子科学技術研究開発機構研究員、2019年より主任研究員、2020年文部科学省研究振興局科学技術・学術行政調査員(出向)を経て、2021年より現職
HP
https://www.qst.go.jp/site/qms/radiation-regulatory-science-research.html