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学部4年生の前期に素粒子物理の講義を受講して、素粒子物理の魅力に取り憑かれました。その講義の先生が実験系だったことと、理論研究ができるほど自分が賢くない(ことに気づき始めていた)ので、大学院からその先生の研究室に入れていただきました。学部の時は物性理論の研究室に所属していたので、研究を始めた当時は慣れない実験装置に囲まれて苦労したことを覚えています。がむしゃらに研究に打ち込んだことによって、なんとか博士号を取得して現在に至っております。
記憶にある範囲では中学生のときにはすでに研究職を志していて、企業への就職は全く考えたことがなかったので、あまり参考にならないですね。ただ、私は2回目のポスドクの時に研究テーマを大きく変えたので、その時は少し不安はありました。その時も目の前のやるべき事に無心に取り組んだことによって、その後なんとか助教職に就くことができました。企業に就職するにしても、研究職に進むにしても、自分の選択を信じて真摯に仕事に打ち込んでいれば、結果はついてくるのではないかと思います。
素粒子の標準模型は、ほとんど全ての素粒子現象を定量的に説明する極めて堅牢な理論体系です。しかしながら、暗黒物質の正体や物質優勢宇宙の起源を説明できず、標準模型を内包するより大きな理論体系(新物理法則)の存在が確実視されています。新物理法則の探索は、欧州原子核研究機構のLHCに代表される超大型加速器を用いた高エネルギー粒子衝突実験が王道ですが、私は茨城県東海村の大強度陽子加速器施設で、中性子やミュー粒子を用いた比較的小規模な実験を行なっています。小規模ながら、アイディア次第では特定の新物理法則に対してとても高感度な場合があるのが魅力です。大学では主に放射線検出器の開発を行なって、装置を現地に持ち込んで実験しています。
上にも書きましたように、大学院から研究室を変えたので、初めは苦労しました。先輩は海外の研究所に常駐していて、同期は研究テーマが少し違っていたので、相談できる人があまりいませんでした。ちょっと高級な装置を壊してしまったこともあります。ただ、そのおかげで分からないことがあっても自分で調べて、試行錯誤して、なんとか解決する問題解決能力を身につけることができたのかもしれません。
ちょっと変わり種ですが、私が研究で使っている中性子は原子番号ゼロの原子核と考えることもできます。また、水素原子の原子核をミュー粒子に変えたミューオニウムも研究でお世話になっています。あと、中性子線源として使われるカリホルニウム252も(なんとなく)好きですね。
趣味なのかどうかは分かりませんが、ここ八年くらい米作りをしています。普段は無機質なものを相手にしているので、自然の中で体を動かすとリフレッシュできます。あとは、「研究の息抜き」ではないかもしれませんが、新しい実験を考えるのが好きなので、研究の合間に(現実逃避的に)あれこれ妄想したりしています。