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社会の役に立ちたいと放射線技術科学を専攻し、少しだけ臨床経験を積みました。その経験から放射線影響の見識を深めたいと考え、臨床を辞めて学究の徒につくことから研究が始まりました。このとき少しだけ勇気をだして研究室の門を叩いたこと、そして何より指導教授が温かく迎え入れてくださり、学問だけでなく人として成長する機会を多く与えてくださったことで道が開けたのだと、深く感謝しています。
少しの臨床経験から、人体へ直接、放射線を照射するほぼ唯一の職種である診療放射線技師こそ放射線の生体影響を解き明かさなければならないと思い至りましたが、それを担う者が少なく残念に感じました。その思いに駆り立てられ大学院進学を考えたとき、博士号を取得し教育・研究職を志すことを自然と選択できました。他者に任せず挑戦すべきとの強い思いから一歩踏み出せたのだと、今振り返って思います。
高線量被ばく個体を救命するための新たな治療標的を、幾つかの観点から探索することに挑戦しています。造血幹細胞は分化・増殖することで生涯に渡り末梢血球を供給していますが、高線量被ばくにより分化・増殖能が著しく低下します。これは個体の生存に必要な造血再構築を妨げる要因となります。そこで、未熟な造血幹/前駆細胞が分化・増殖能を喪失する機序を理解することで、新たな治療標的や戦略を見出したいと考えています。
困難の中にこそ好機はある、と捉えています。研究では計画したとおりに進まないことも、予想と異なる結果がもたらされることも、しばしばあります。めげそうなときもあるけれど、そのようなときこそ何かがみえてくるかもしれない、自らの視点をかえる好機なのかもしれません。誰しも好機に出会うはずですが、それを活かせるかはそのときの姿勢次第、謙虚にデータと向き合うことを大切にしています。
大学院時代の恩師である柏倉幾郎先生とのご縁に恵まれたことは、私の人生に大きく影響しました。研究者としてはもちろんのこと、社会人として大切なことを数えきれないほど教えてくださいました。いつか、それらを真に理解できたとき、ひとつずつ次世代へ紡いでいきたいと考えています。
大学院時代に、ひょんなことからランニングをはじめました。予定等で難しいこともありますが、早朝に10 km程度を週3回走ることを目標にしています。頭がスッキリするので思考を整理したり、ときにはアイデアを思いついたりと、とても好きな時間です。
アイソトープや放射線の研究分野は多岐に渡り、驚くほど多彩な背景をもった研究者が携わっています。それぞれの視点から考え、紡ぎだされた異分野融合がもたらす領域は広大で、誰もたどり着いていない未知の世界が広がっていることでしょう。専門性を高めると同時に、その他の事柄にも関心をもつことで懐の深い人へ成長し、ライフワークと出会えるといいですね。素敵な巡り合わせが、またとない機会をもたらしてくれるはずです。