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好き気ままな生活をしていた際に、アイソトープを扱っているラボから「暇なら植物の世話を手伝ってよ」とのお誘いがあり、アルバイトを始めたのが全ての始まりです。そのラボがアイソトープを扱っていなければ間違いなく放射線の研究に関わることはなかったでしょう。福島第一原発事故後のタイミングだったので、知人等から「放射線って大丈夫なの?」と質問を受けたこともありました。
「ジョウロで水やり」程度にしか考えずに始めたアルバイトでしたが、入って半年後くらいに海外学会へのポスター参加の指令がおり、状況が一変しました。大きなポスターなんて作ったこともなく、更に英語。もちろん、その段階では発表できるデータは一切ありません。そこからはひたすら実験、実験、実験。でも非常に充実した毎日であり、研究職っていいなと思った出来事でした。
田舎に行ったらおいしい物が食べられそうだという食欲と、宿泊費と食費をかけずに旅行ができそうという下心満載で日本全国の農家巡りをしていました。米、野菜、果樹、酪農、漁業などありとあらゆるジャンルを渡り歩きました。建前上は食住を受ける代わりに働くことでギブアンドテイクですが、役立てたことはなかったのではないかと思います。受け入れてくれた農家さんたちには大変感謝しております。
植物が吸収した養分は植物の体内を縦横無尽に駆け巡り、葉や実に貯めこみます。植物体内の養分の動きは、根の周りにある栄養条件、日照(昼と夜)や季節などによって変わってきます。この植物と養分との関係がわかると、栄養が豊富な作物の栽培や肥料の節約が可能となり、農業上、重要な研究分野になります。植物にアイソトープを取りこませ、アイソトープがどの部位にどれくらい溜まるのかを解析することで、養分の動きを追うことが可能です。この動きを画像化する技術の開発を行っています。
料理をよくします。キッチンがそこまで広くないため、食材を切ったり加熱したりの工程を効率よく行わないとスペースが足りなくなってきます。そのため、作る前に全工程のイメトレを瞬時に行う必要があります。もちろん、調味料の入れるタイミング、量なども重要でトライアンドエラーの繰り返しです。そして、食べた後はYouTubeで料理動画を見て反省と次の構想に役立てます。この一連の流れ、研究とまったく同じような気がします。研究者は料理に向いているのかもしれないですね。
研究の技術やツールには流行り廃りや新旧交代があります。アイソトープや放射線は古くから使われている技術であり、利用者は年々減少しているのが現状です。一方で、医療分野においては放射線治療など最先端医療によりアイソトープ・放射線の市場規模は拡大しています。加えて、2年に一度の割合でノーベル賞に関わっているツールでもあり、この先なくなることのない分野であると思っています。放射線は敷居が高く取り扱える研究者が少ないからこそ、希少価値を高めやすくオンリーワンになれる可能性を秘めているのではないでしょうか。