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大学生時代、特に真面目な学生でもなかった私ですが、放射化学の講義で「フルデオキシグルコース(18F-FDG)」のがんへの集積機序を学んだ際、放射性薬剤の開発に盛り込まれた遊び心やその明快さに大いに惹かれ、この分野であれば楽しく研究できるのではないかと信じて、放射性薬剤の開発に携わる研究の道に進むことを決意しました。研究室に配属された当時は、分子イメージング研究の黎明期であり、幸い時代の流れに乗ることができました。
研究を始めた当初から、最先端の研究を進めているのだとの自負はありました。何より、誰も見たことがない「より先の真実」を見たいがために、大学院へ進学し、さらには研究職へ進むことを決意しました。一度きりの人生、自分の好きなことを職業にするという点で全く不安はありませんでした。アカデミアでの研究職は、興味あることを好きなだけ追求したい性格の方には、これ以上ない職業のように思っています。
水溶性ポリマーやナノ粒子などの高分子を基盤とする薬剤の開発を進めています。例えば、水溶性ポリマーの中には熱に応答して凝集する特性を示すものが存在しますが、このポリマーの特性を上手に活用することで、低分子医薬品では達成しえない、がん標的薬剤を創出することができます。さらに、強力なツールである放射性同位元素と組み合わせることで、全く新しいアイデアに基づく核医学診断・治療用薬剤の開発を行っています。
放射線を用いたイメージングは、生体内の薬剤分布が正直に画像に反映されるため、素直な心で結果を受け止め、より優れた薬剤開発に繋げていくことが非常に重要だと考えています。それだけに、失敗にめげることなく信念を持って研究を進める必要があるため、つらい場面もありますが、疾患部位を明瞭に描出できた場合は、この上ない喜びを得ることができます。是非学生達には、この感情を味わってもらいたいと考えています。
現在の研究の主軸は、「水溶性ポリマーを基盤とする薬剤開発」です。先述の通り、ポリマーは低分子化合物とは異なる様々な物理化学的特性を示します。これらの特長を活かして、ポリマー型薬剤という新しい医療分野を開拓したいと考えています。放射性同位元素は診断・治療の両面において、強力なツールとなることから、ポリマーと放射性同位元素を組み合せた、全く新しいアイデアに基づいた薬剤を開発していきたいと考えています。
私が専門とする放射性薬剤開発は、医学・薬学領域において非常に重要な分野であるにもかかわらず、携わる研究者の数はさほど多くありません。ある意味競争もほどほどに気楽に進めることができ、自由な発想に基づいて研究を展開することができるでしょう。近年、核医学治療が再び脚光を浴びると同時に、それに資する薬剤開発に非常に高い関心が集まっています。是非この分野に飛び込んできてもらえればと思います。