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大学3年生の時に放射化学研究室(篠原研究室)を選択し、アイソトープを用いた研究を始めました。理学部化学科の中では異色な研究室でしたが、物理よりの研究に興味があり、広島出身ということもあって放射壊変に関心があった私にはベストな選択だったと思います。普段絶対に使えないような元素を扱えるのも大きな魅力でした。私は、原子核の半減期が化学的な環境に応じて変化する特異なアイソトープ(235mUと229mTh)に興味を持って研究を行っており、今も継続しています。
研究室に入った当初は何も考えていなかったのですが、学部4年生の時に研究を行っていくにつれて研究が面白くなり、博士課程に進むことに決めました。当時、博士課程教育リーディングプログラム(インタラクティブ物質科学・カデットプログラム)の履修生に採択され、修士から博士修了までの生活費を確保できたので、大きな不安はありませんでした。博士修了後も核化学という分野にずっと携わっていきたいという思いが強く、そのまま研究職に進みました。自分のアイディアで研究を一からデザインできるのが、研究職の面白いところだと思います。
ほとんどの原子核のエネルギーレベルはkeV以上ですが、229Thの第一励起核229mThは8 eV程度という極端に低い励起エネルギーを持っています。8 eVは化学結合のエネルギーレベルですので、化学の力で原子核の壊変過程や半減期を変化させられる可能性があり、とてもワクワクします。また、超高精密な原子核時計への応用も期待されており、今非常にホットな核種です。私は、229mThから放出されるγ線の観測を目指して研究を行っています。229mThを複数の方法(233U, 229Pa)で作ったり、229mThを真空中に引き出してトラップする装置を開発したり、229mThのγ線を測定する装置を開発したりと、様々な手法・装置を開発することで、一つの目標を達成しようと取り組んでいます。一方で、理化学研究所の加速器を利用したアイソトープ製造研究にも携わっています。
研究目標を達成するために何が必要かを、広い視野で考えつくすようにしています。特に、他分野の知識や技術を積極的に学び取り入れることが、新しい研究を進めていくうえで重要になると実感してきました。例えば、私が博士課程で実施した研究の場合、低エネルギー内部転換電子を高効率・高分解能で分光測定する必要がありました。他大学の物理化学の先生に相談して、新規の装置を立ち上げることで、ついに測定に成功し、科学的な成果を得ることができました。最近では、低速RIイオンビームを高効率で引き出す装置を原子核物理の先生に教えてもらいつつ開発することができ、229mThを用いた新しい研究を始められそうという段階にきています。
研究対象としてきた235mUや229mThはもちろん、それらを生成するための親核として使用してきた239Pu, 233U, 229Ac, 229Pa等が好きです。特に、229Acや229Paは、サイクロトロンで加速した水素を232Thに照射して製造したのですが、同時に大量の核分裂生成物が生じるため、照射しただけだとγ線のピークすら見えません。化学分離を行うことで229Acや229Paのγ線をようやく拝むことができ、物理実験に使える純度の高い試料が得られます。このあたりが核化学の醍醐味だと思います。
漫画を読むことがよいリフレッシュになっています。最近はスマホ1台で漫画を管理できるので、気になった漫画はすぐに買って読んでしまいます。また、大の広島東洋カープファンですので、野球を見ることも好きです。最近はなかなか球場に行けずテレビ観戦が多いのですが、選手たちが頑張っている姿に画面越しからでも元気づけられています。
アイソトープは、物理・化学・生物・薬学・医学など様々な分野で活用されていますが、そのほとんどが加速器や原子炉を利用して人工的に作られたものです。核化学を学べば、アイソトープを人工的に作り、目的のアイソトープのみを化学的に分離できるようになります。放射線計測や原子核物理の知識も必要になるので、化学と物理の両方に触れたい人にとっておすすめの分野です。また、自分で作ったアイソトープを使うことで、超重元素などの天然に存在しない元素の研究や、原子核壊変への化学効果の研究など、アイディア次第で様々な研究が可能です。核化学は、アイソトープ研究のスタート地点となる重要で面白い分野です。皆様のご参加をぜひお待ちしています。