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大学に入学した時は、量子を足がかりに複雑系やフラクタルの理論的な研究をしたいと思っていましたが、学部教育(九州大学工学部応用原子核工学科)で放射線やその計測器の応用技術を学ぶにつれ 計測技術の方に興味がシフトしていきました。大学院特別選抜試験の際、希望研究室には迷わず計測器関連の開発を実施していた「的場研」を第1希望に選択して、それが叶い、原子核物理や放射線計測学の世界に足を踏み入れました。いまのところ複雑系の研究に未練はありませんが、老後の楽しみにはなるかもしれませんね。
私は小学校4年生の文集で、将来の夢に「天文学者になる」と記載するほどは首尾一貫して研究職を志していました。もはや他の夢を持っていた記憶すらありません。父が若い頃苦学生だったこともあり、子どもが費用面で勉学の道を諦める事のないように、との信条を持っていたようです。そのおかげで迷いなく研究職に進むことができました。父は定年後間も無く他界してしまいましたが、今の私があるのは両親の支えがあったからに違いありません。
日本原子力研究開発機構でポスドクをしていた頃、どのような計測にも興味を持つ私をみて、大阪大学名誉教授の永井泰樹先生がスタートしたばかりの加速器中性子源を用いた医療用RI製造の研究に誘ってくださいました。それがきっかけとなり、現在も私の研究テーマの半分はRI製造に関連する研究です。放射線治療というと体外からの照射が真っ先に頭に浮かびますが、体内へのRIの投与によって、がん細胞ひとつひとつに放射性同位元素を送り込む技術の一部を担っています。将来、多くのがんがこの技術によって寛解に至ることを夢見て研究に取り組んでいます。
思いついたことを全て実施するには人生は短すぎるので、とにかくリスクを顧みずチャレンジするようにしています。おこがましくも申し上げるなら、私はひらめきの人で、ひとつアイデアが浮かぶと関連して次々と発想が広がります。もちろん、湧き出る提案の全てがうまくいくわけでもなく、また正しくないものもありますが、必ず成功することも含まれているので、常に直感を軽視しないように心がけています。
ポスドク時代に今回紹介した研究に誘ってくださった大阪大学の名誉教授永井泰樹先生です。論文執筆の方法、競争的資金の獲得など研究者として欠かせないスキルを直接・また背中で教えてくださいました。特にご自身が科研費の特別推進研究に採択された際は、その準備期間から採択、実施までの一部始終を目の当たりにさせていただき大変勉強になりました。個性も大変魅力的な方で、このような研究者になりたいと思わせるのに十二分なお方です。
安定同位体が唯一しか存在せず、中性子捕獲反応断面積には大きな共鳴があり、さまざまな場面で中性子フラックスを知るために欠かせない元素・・・金です。このような理由をさておいても誰もが認める貴金属であり、他の金属にはない独特な色と決して色褪せることのない輝きも魅力の一つですね。そして何より私の苗字が「金」ということも大きな理由のひとつです。
震災の自宅待機指示の期間に始めたレース編みと、南米の楽器パンデイロの演奏です。レース編みは最近あまり時間が取れていませんが、卒業生などへのプレゼントとして時々小さなコースターなどを編んでいます。単純な手順でどんどん編み上がっていく緻密な幾何学模様は、単純なルールで構成されているにちがいないこの宇宙を思わせますね。パンデイロはタンバリンのような楽器ですが、フルドラムセットのような音を演奏できるので、今でもしょっちゅう叩いています。唯一の難点はその音量より近所や周りの方々の迷惑になるため、楽しむ時間が限られていることです。
大学院で放射線理工学という、専門として放射線を学んできていない学生を対象にした講義を持っています。選択科目ですが、広い分野から例年90名程度の受講生があります。私が数えると、ノーベル賞の120年の歴史を外観すると2021年時点で約65件は放射線の発見や応用技術です。独立に高エネルギー加速器研究機構 川合 將義 教授が数えた結果を拝見するとほぼ同数でした。常に時代の最先端にあり続ける放射線計測の魅力と威力をお伝えしたいと常日頃思っています。