研究者紹介 No.28

研究者紹介
更新日:2022年10月21日(所属・役職は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

修士課程から東京大学原子力国際専攻高橋研究室に入り、そこでアイソトープや放射線の研究を始めました。最初に従事した研究がTlBr検出器の基礎性能評価というもので、まずそこで放射線や放射線検出器の基礎を学びました。高橋研究室では放射線計測に関する基礎研究から応用研究まで幅広く行なっていたので、研究を進めていくうちに核医学への応用研究に興味を持ち、博士課程からは核医学イメージング技術の研究をメインに行っています。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

元々博士進学志望ではなく、就職志望だったので博士進学の際は非常に悩みました。しかし、メーカー企業への就職を考えていましたが、当時自信を持ってアピールできるスキルがなく、かつ研究が面白くなってきた時期でもあり、あと一年でやめてしまうのはもったいないと思ったので進学を決めました。日本では博士課程進学はまだ少ないので色々な不安がありましたが、進んでしまえば悩んでいたことも気にならなくなりました。その後は、研究職の比較的自由な環境や国際会議や研究等で世界に触れられるが刺激的で、そのまま就職は考えずに研究職に進みました。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

目に見えない放射線を検出する放射線計測技術の研究開発を軸に、核医学イメージング技術の研究を行っています。核医学検査では、X線やガンマ線を使って生体内の薬剤動態・分布を可視化し、そこから機能・代謝情報を得ることができます。放射線計測も核医学イメージングもそうですが、普段目に見えないものの可視化に自分たちで開発した原理や技術を使って挑戦するという過程にワクワク感と面白さを感じます。また、放射線は、物理、化学、生物、工学、医学などさまざまな分野で利用・研究されているので、色々な分野の研究者と交流、共同研究できるのも一つの魅力です。

研究を行う上で大事にしていること(モットー)を教えてください

研究では考えて理解して納得するということを大事にしています。研究に行き詰まった時やわからない時には、先生や周りの人に相談すると思います。実験や研究のアドバイスをもらった際にも、言われたことをそのままやるのではなく、自分でも理解して納得してから進めることで、研究の進め方が見えてくるようになると思います。一方で人に聞くということも大事にしています。経験の多い先生や他の分野の研究者に相談することによって自分の知識範囲や勉強だけでは気づけなかったことや解決策を知ることができる時があります。

あなたの好きな(縁のある)放射性同位体や元素を教えてください

111In】核医学で用いられているSPECT核種です。博士課程時代の研究で一番多く使用していました。これまでも、これからも私の研究で重要な核種です。111Inは2本のガンマ線を連続的に放出するカスケード核種でもあるので、同時計測による新しいイメージング手法や量子計測技術にも利用できる応用の幅が広い面白い核種です。
他にも18F、177Lu、211Atといった短寿命RIや241Am、22Na、133Ba、137Csといった様々なRIを研究で利用していて、馴染みのある核種はたくさんあります。

研究の息抜きにしていることを教えてください

最近は料理をすることが気分転換になっています。国際学会でフランスを訪問し、フランス料理の美味しさに感動してから今はフランス料理に興味を持っています。作る工程や食材、調味料が日本料理とはまた違うのでとても新鮮です。作ったことのないレシピの料理を作ってみることは実験と似ている部分があるので楽しいのだと思います。

学生へメッセージ

アイソトープや放射線を使った研究をしている(したいと考えている)学生へ一言お願いします

アイソトープや放射線に対してネガティブなイメージがある方も多いと思いますが、実際は幅広い分野で利用されており、正しく利用することで私たちの生活に恩恵を与えてくれています。放射線というキーワードを軸に、他の分野の研究へ発展させることも、分野横断の連携で全く新しい技術の開発や発見をすることも可能だと思います。私の場合、"放射線検出器"という基礎研究の関連で宇宙分野の研究者との関わりがあり、それが今に繋がっています。様々な分野の人と関われる面白い分野だと思うので、ぜひ色々な知識や経験を吸収して次のステップに繋げてください。


上ノ町 水紀(うえのまち みずき)
専門
放射線計測、ガンマ線イメージング
略歴
2021年3月 東京大学大学院工学系研究科修了 博士(工学)、2021年4月-2022年5月 理化学研究所 日本学術振興会 特別研究員PDを経て、2022年5月より現職