文字サイズ: |
大学4年生で研究室配属を決めるにあたり、仲の良かった友達とともに、獣医診療技術を磨ける研究室ならどこでも良いくらいの気持ちで、深く考えずに放射線学研究室を選びました。当時は、非密封線源を用いたin vitroだけでなくin vivoの研究も活発であり、自分の研究だけでなく様々な放射線研究を手伝っていました。施設の放射線管理についても、当時の教授に刷り込まれつつ、実際の管理作業を行っていました。
当初は普通の動物病院へ就職するつもりでしたが、教授から大学院への進学をもちかけられました。大学院へ在籍しつつ、当時の原子力研究所で特別研究生として研究を行なっていれば、育英会の奨学金と特別研究生の奨励金で費用は賄えるという言葉に、その場で前向きに進めてもらえるようお願いしました。とにかく、面白そうな事があれば首を突っ込みたくなる性格で、そもそも生きていくのは、どうにかなるものだと思っていましたから、不安は特に感じませんでした。
国内で唯一核医学診療を行う獣医師として、診療を行いながら、動物に対してどれだけ体に優しく、高精度の臓器機能情報を引き出せるか、シンチグラフィやSPECT、PETの画像と睨めっこしています。他の画像診断機器と組み合わせることで、本当に悪い組織なのか、自分が下した診断が正しいのか、という悩みを減らしてスッキリさせてくれるところが快感です。今度はサイクロトロン施設で、保険適用もされていないような放射性医薬品で動物の体を調べようと企んでいます。
この放射線の世界で今もずっと私を牽引していただいている、私の研究室の先代の教授でもある伊藤伸彦名誉教授です。公私ともに父のように思っています。私は手のかかる息子だろうな、とは思っています。
99mTcと18Fが最初の獣医診療で使用が認可された核種なのですが、この2核種のおかげで私は今の職についていると思っています。18F-FDGは、私の生まれ年(1978年)に井戸達雄先生が報告され、がん検査は大きな転機を迎えたことを知ってから、勝手にますます好きになっています。99mTcは初めて使った非密封RIでもあり、他の薬剤に比べてなんと簡単に測定できるのだろうと感動しました。学生当時、RIと同時投与した薬をHPLCで測定していたのですが、そちらはとにかく面倒でした。
サイクロトロン施設を備えた、PET検査も粒子線治療も行える教育・臨床・研究を兼ね備えた動物病院を作りたいと思っています。そのためには、そんな放射線施設があって良かったとペットの飼い主へ思っていただけるように、今行っている診療や研究を昇華させ、放射線以外の技術検証や法律の整備に力を入れていきたいと思っています。
生物学分野で「放射線」を用いた研究というと、取り扱いが煩雑となりそうなイメージがありました。しかし、いざやってみると化学物質や細菌・ウイルスなどを使った研究と大差なく、一般的な研究手技さえ身につけておけば、in vivo、in vitroともに綺麗なデータが次々と得られるようになります。エラーバーが小さくて困るくらいかもしれません。使ってくれる人がいるおかげで放射線の管理者も仕事が成り立つので、どんどん要求を言ったもん勝ちです。是非、スッキリ感を味わってください。