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大学院修士課程ではプラズマの研究をしていました。そのなかでレーザー光によるアイソトープの制御(励起・イオン化)に興味を抱くようになりました。当時所属していた専攻に井口哲夫先生の研究室があり,新しい放射線検出法の開発やレーザーによるアイソトープの検出法の研究を行っていたため,博士課程になる際に井口研究室に移籍し,アイソトープ・放射線の研究を始めました。
博士課程を終えたときには,ほとんど迷わずに研究職に進むことを決めました。これは,それ以前の博士課程に進学する際に,研究テーマを大きく変更しており,将来の職種も含めて非常に悩んだからです。研究テーマを変えて博士が取得できるのか,など不安が大きかったのですが,最終的には「やりたいことをせずに悔やむよりも,自身がやりたいことにチャレンジして,もしうまくいかなかったら悔やむ方がいい」,と思い決断しました。ある意味では,就職先を探すよりも前の段階で研究職に進む覚悟ができたので,良かったと思っています。
レーザー光を使ってアイソトープを分光・分析する手法,ガンマ線や中性子を検出・可視化する手法の開発を行っています。例えば,放射性炭素同位体は生体を構成する主要元素の同位体のうちで唯一,長い半減期であり,生体トレーサーとして有用です。そこで,放射性炭素同位体を高感度かつ迅速に分析するための,レーザー光を用いた新しい手法を開発し,創薬や個別化診断などへの応用を目指して,研究開発を進めています。また,レーザー光にて元素や核種を選択してイオン化する手法をアイソトープの分析や分光に利用する研究などもしています。
研究成果がどのように使われるのかを常に意識しています。例えば,放射性炭素同位体を分析する手法の開発は,分析装置が完成したら最初のユーザーとなってくれる企業と共同で研究開発を開始しました。このためプロトタイプ装置を短期間に開発することに成功し,得られた成果が表彰される(共同研究者がRADIOISOTOPES誌「論文奨励賞」を受賞)などしています。これは工学・産業応用を主眼に置いた研究だけでなく,原子核物理のためのレーザー分光法の開発の研究などの理学研究についても,その成果をより多くの研究者に利用してもらえることをモットーにしています。
アイソトープ・放射線は,今よりももっと大きな恩恵を社会にもたらすことができると考えています。このために,極微量なアイソトープの超高感度分析法や放射線計測と他の測定原理を融合した革新的な手法の研究を進めて,従来では不可能と思われていたアイソトープ・放射線の利用が実現できるようになることを目指しています。
アイソトープや放射線は,世間では負の印象を持たれることが多いのですが,これらを使った研究によって現代科学が発展したことも事実です。特に日本国内では,歴史的な経緯からアイソトープや放射線の負の面が大きく取り扱われますが,正しく理解し,正しく恐れることをすれば,社会に大きな恩恵をもたらすことができます。アイソトープや放射線を使った研究をしている皆さんには,ご自身の研究のみならず,異なる分野でアイソトープや放射線がどのように利用されているかに目を向けることをおすすめします。関連分野の広さに驚くとともに,新しい発見があると思います。