文字サイズ: |
私が取り組んでいる仕事や研究の対象は,"人体"になります。ヒトのサイズで生体の重要な機能を調べるには,人体を透過して私達に信号を送ってくれる手段が必要で,今のところそれは,ガンマ線の透過性に頼るしかありません。たとえば,手術で知りたい部位を取ってくることも可能ですが,「手術」自体によって生体機能は乱されてしまいます。ですので,生体機能に影響しないようなごくわずかな介入によって,重要な情報を得てくるためにはガンマ線をうまく利用している核医学しかないということで,辿りつきました。
私の場合は,16年の病院勤務から現在の研究職への異動時が「研究職に進む」に相当すると思います。当時の状況は,例えるなら,もう戻れないかもしれないという不安とともに,急いで綱渡りをした,という感じです。受入れ側(現在の所属チーム)も前例が無い中,超短期間で受入れを整えてくれ,どのようにしたのか今でも不思議です。結局,前職中に助けてくれた先生方と継続できる仕事を一緒にしており,病院と研究所の双方に,信頼している医師・研究者がいるという大変恵まれた状況になりました。
私は主にPET(Positron Emission Tomography)を使って,患者さんの診療を行ったり,研究を行ったりしています。PETのPはPositronで,"陽電子"であり,電子の"反物質"です。そもそも,陽電子なんて存在するのか?電子の反物質という存在自体を信じがたいのですが,私は,確かに,それを使って,患者さんの命を救うこと,暮らしを豊かにすることに役立てています。
ラジウム(Ra):『キューリ夫人伝』を読み,1890年代の226Raの発見に至るまでの苦労や,治療法としての試みを文面としては知っていたのですが,2017年に勤務先の病院で223Raを実際に患者さんに投与し,その効果を目の当たりにし感動しました。でも,まだ課題があるので,もっと深く調べる必要があります。
ジルコニウム(Zr):ようやく私達も取り組み始めました。核医学の新たな希望となるよう頑張っています。
食事。お昼は研究所の食堂に行っています。"Lunch!"の号令で,皆で行きますが,時々,急がないと置いてかれてしまいます。病院に勤務していた頃は,お昼ご飯も短時間に1人ですませていたので,今の状況は大変幸せに思います。
興奮して眠れないときは,Tove Jansson(トーベ・ヤンソン)の小説を読みます。動物の野性や,ありのままの自然に対する敬意を感じ,とても自由な気持ちになります。
核医学では,ごく微量のアイソトープが,患者さんの体内の,どこにどういう病気があるかの情報を伝達してくれます。PET,もしくはそれを超える計測装置で,核医学の手が,いまだに届いていない病気の解明や診療に役立つようにしたいです。
アイソトープや放射線に関わる研究は,おそらく大学の学部レベルの知識・経験では辿り着けないような面白いことと出会うと思います。摩訶不思議な考え方,対象とするデータの桁が人間の五感をはるかに超えていて,それまで不明だったものが計測でき,病気を理解したり,アイソトープ自体が癌を撃退したりもします。また,私が現職についてから驚いたことは,困難が多いにも関わらず,周囲の研究者たちは非常に前向きで建設的・合理的だということです。私1人では到底出来ないような事にもチャレンジしたくなってしまいます。