研究者紹介 No.3

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更新日:2019年11月15日(所属・役職は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

私は医学部保健学科放射線技術科学専攻の学生でしたので,放射線の基礎や医学に関する研究しか選択肢がありませんでした。学部生の頃は,放射線には健康リスクしかないと思っていましたが,ラドン温泉のように健康に有益な効果もあるという話を聞き,それについて詳しく知りたくなりました。卒業研究で始めた研究を,今も継続して実施していることなんて当時は想像もしていませんでした。違う研究室に配属されていたら,診療放射線技師として病院で働いていたと思います。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

大学に入学する前から漠然と研究者になりたいと思っていて,大学入試の面接の際,「研究者になりたい」と言ったことを鮮明に覚えています。指導教員の強い勧めもあり大学院への進学を決めました。就職しないことへの不安よりも,研究したいという気持ちが強かったため,当時は満足していました。研究室の後輩たちも研究職を目指す人達がいましたが,正規の職についた後輩たちは皆,私と同様に就職しないことへの不安よりも研究したいという気持ちが強かったと思います。そういう人が成功するんだなぁと思いました。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

私は低線量放射線により誘導される生体防御機能の活性化を用いた種々疾患抑制の可能性とそのメカニズムについて研究をしています。特に近年は,ラドン(222Rn)温泉の健康効果や医療応用に着目しています。欧州では実際にラドン治療が実施されており,疼痛関連疾患などの症状緩和の知見が得られているものの,そのメカニズムは分かっておらず,分からないことを明らかにしていくことに魅力を感じています。

No3-2.png 写真 ラドン吸入装置

今までで研究をしていて苦しかったこと、辛かったことを教えてください

我々のグループでは,ラドンの健康効果を検証するために様々な疾患モデル動物を作製しています。モデル動物作製前には文献調査をするのですが,その文献に書かれた手順でモデル動物を作製しても再現できない場合が多々あります。その場合,実験条件を変更し再度モデル作製をしますが,動物実験計画書を書き直し新規に審査してもらう必要があるなど,モデル動物を再現するまで2年ほどかかることもあります。しかし,そのモデル動物を用いてラドンの健康効果の実証とそのメカニズムを明らかにできた時には,いつにも増して達成感があります。

あなたの研究人生において、影響を与えた方を教えてください

やはり恩師の山岡聖典先生でしょうか。特に,「若い人に活躍してもらう」という考え方をお持ちで,色んなチャンスを与えて頂きました。その中で,自分のできることをしてきた結果が少しずつではありますが,実を結びつつあります。また,今までチャンスを与えて頂いた分,その恩返しではないですが,研究室の大学院生が活躍できる機会をたくさん与えてきました。その結果,大学院生が学会等で受賞する機会も増え,さらに,博士号取得後,大学や研究機関で教員や研究者として活躍する学生を複数名輩出することができました。今後も「若い人に活躍してもらう」という考え方は変えないつもりです。

同じ研究分野で関わりの深い方・企業を教えてください

日本原子力研究開発機構人形峠環境技術センターの迫田晃弘先生にはお世話になっています。彼は研究室の後輩でもありますが,保健物理を専門としており,ラドンの測定は任せっきりです。学生時代は毎日昼食を一緒に食べた仲でもあり,気心知れた仲でもあります。お互い多少頑固なところもあり,意見の衝突は日常茶飯事ですが,じっくり話し合うことでいつも丸く収まっています。また,優秀な研究者であり,後輩ですが尊敬できる面もたくさん持っています。

あなたの好きな(縁のある)放射性同位体や元素を教えてください

縁のある放射性同位元素は222Rnです。ラドン(222Rn)温泉として有名な三朝温泉(鳥取県)に動物実験施設を設置し,小動物を用いたラドンの曝露実験を行っています。プライベートでも三朝温泉の旅館に宿泊するなど,ラドンとの関係は切っても切れないものとなりました。

研究の息抜きにしていることを教えてください

広島県出身ということもあり,広島東洋カープの大ファンです。月に1~2回,マツダスタジアムに行っています。勝てばストレス発散,敗ければストレスがたまるという二面性を持っていますが,球場でのファンの一体感が非常に心地よいです。

今後の目標・展望を教えてください

ラドン療法が医療で幅広く活用できるよう,研究を進めていくことが目標です。岡山大学病院三朝医療センターで実施されていたラドン療法は,同病院の廃院に伴い実施できなくなってしまいしました。それでも,一部国内外でラドン療法が実施されているようです。特に,三朝医療センターで実施されていたラドン療法からうける被ばくは非常に少ないにもかかわらず,臨床で顕著な症状緩和効果が得られており,そのメカニズムは分かっていません。今後の研究により,明らかにしていきたいと考えています。

学生へメッセージ

アイソトープや放射線を使った研究をしている(したいと考えている)学生へ一言お願いします

研究室選びは間違っていませんか?その研究室の大学院生(または若手教員)は活躍していますか?研究室の教授は若手育成に熱心ですか?極低線量放射線の健康影響は,他の環境因子のリスクにかくれてしまい,なかなかわかりません。若い皆さんがこの研究分野に興味を持ち,将来,これらを明らかにすることを期待しています。


片岡 隆浩(かたおか たかひろ)
専門
放射線健康科学,酸化ストレス
略歴
2008年3月岡山大学大学院保健学研究科修了 博士(保健学),2008年4月より現職