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学部のミニ卒論で「超臨界水の放射線分解」のテーマに取り組んだことがきっかけです。はじめは放射線よりも超臨界水に興味がありましたが,研究室内の人員配置の都合もあり大学院では「がん治療用のGeV級高エネルギーイオンビームによる水の放射線分解」の研究に取り組むようになりました。大学院では恩師に叱咤激励されることも多かったですが,次第に放射線の不思議さを体感するようになり,自分で疑問に思うことを見つけてそれを明らかにしていくことが楽しくなっていました。
一般企業へ就職することも大学や研究機関での研究職へ就くこともどちらも不安はありました。現役学生からは,特に後者の選択肢に不安を感じるという意見をよく聞きます。ただ,自分の適性ややりたいことにどちらが合っているかだと思います。私も修士課程の頃に就職活動をしてみました。面接やその準備で自問自答を続けた結果,自分の場合はある程度時間をかけて自分なりのゴールを設定して研究をしたいと思っていることに気づき,一般企業ではなく大学や研究機関での研究職の道を目指しました。
学生の頃は勉強そっちのけでバスケットボールに熱中していました。今思えばコツコツと知識を積み重ねておけばよかったと思うことも多いですが,一つのことに熱中することやチームの中で協力して目標に向かうことを経験できたことは今の生活にも活きていると思います。
趣味や好き嫌い,行動パターンなど相手を知ると円滑なコミュニケーションの助けになります。長所と短所が表裏一体であるように,放射線が有益か有害かも表裏一体で根源となるのは共通の"個性"と言えます。現在の取り組みでは,放射線がどのような変化を起こすかマイクロ秒(100万分の1秒)以内の速い化学反応を中心に調べています。放射線は人体を含むあらゆる物質に対してフェムト秒(1000兆分の1秒)程度のうちに瞬間的にエネルギーを与え,突如として化学反応を引き起こします。放射線の影響が好ましくなければ抑制し,逆に好ましければうまく活用するため,この速い化学反応の特徴つまり放射線の"個性"を調べています。
ミニ卒論と大学院研究を指導していただいた恩師に一番影響を与えられたと思います。研究内容もさることながら,研究者や人間としてどうあるべきかについて学ぶことも多かったです。広い視野を保ちつつも一つ一つの事柄を突き詰めて考えておられる姿勢も,真似ようと思っていますがなかなかできていないと日々実感しています。
付き合いが長いのは60Co です。
ありきたりかも知れませんが,60Co がベータ崩壊した後に放出するガンマ線は,放射線により生じる最終(安定)生成物を調べる際の標準的な放射線と言えます。学生の頃から博士研究員をしていた頃は東大浅野地区(現在は廃止済み)や量研機構高崎研の 60Co ガンマ線照射施設で日々実験をしていました。
トレーサなどツールとして放射性同位体を利用する研究も,放射線そのもののもたらす作用(変化)を解明しようとする研究も,歴史はまだ100年余りのためまだ分かっていないことも多いです。放射線の分野では,水の放射線分解で生じるOHラジカルという化学種がよく議論されています。OHラジカルは生体影響で重要な化学種ですが,放射線がない状況でも日々の代謝でも体内に生じるほか,大気圧プラズマによる表面処理でも重要な役割を担っています。放射線をキーワードとした研究であっても,実は放射線がない状況での物理,化学,生物で興味を持たれている現象を密接に関係していることも多く,気付かれていないポテンシャルが他にも秘められていると思っています。