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実験目的
実験原理
主な準備物
[A]137mBa のミルキングとカラム内で成長する 137mBa の放射能の測定
[B]137mBa の半減期の測定
放射平衡にある親核種と娘核種から、娘核種のみを繰り返し分離する目的で作成されたセットはアイソトープジェネレータ(またはジェネレータ)と呼ばれ、放射性同位元素を用いた診断・治療や化学実験に応用されている。
ジェネレータの主要部分は、多くの場合、親核種を固定したまま共存する娘核種だけを取り出すためのクロマトグラフィカラムである。このカラム に親核種を吸着させておき、溶離液を流して娘核種だけを溶出させる。
カラムの充填剤としてはイオン交換樹脂、無機酸化物イオン交換体などが多く用いられる。現在、137Cs/137mBa 小型ジェネレータが市販されており、放射線教育用に汎用されている。
しかし、いずれのジェネレータも放射能量が下限数量(1×104Bq)を超えており、放射線取扱施設外では取り扱うことはできない。また、親核種(137Cs)から放出されるベータ線を遮へいする目的と考えられるが、ジェネレータは厚い遮へいが施されていて、カラム内で成長する137mBa の放射能の測定は困難である。
カラムを小型化することで、放射線取扱施設外での取り扱いが可能な、また、ジェネレータに厚い遮へい体を設ける必要もなく、カラム内で成長する 137mBa の放射能の測定も行うことができるジェネレータを開発した。
本実習では、137Cs/137mBa 小型ジェネレータを用いて、ミルキングにより溶出される137mBa の放射能と溶出後にカラム内に生成する137mBa の放射能の時間増加を実際に測定することで、放射平衡やジェネレータの原理・構造を理解する。
親核種137Cs(半減期 30.04 年,β-壊変)と娘核種137mBa(2.552min、IT)の間には放射平衡が成り立つ。137mBa は半減期が 2.552 分でIT 壊変して137Ba となり安定化する(図 1 および表 1)。
この場合137Cs を親(または親核種、 Parent)、137mBa を娘(または娘核種、Daughter)と呼び、化学的性質の相違を用いて両者を分離することができる。
短寿命の娘核種を取り除いた長寿命の親核種からは、時々刻々に娘核種が生成してきて、やがて平衡状態(放射平衡)に達する。放射平衡にある親核種と娘核種から、娘核種のみを繰り返し分離する目的で作成されたセットがアイソトープジェネレータ(またはジェネレータ)である。毎日の乳搾りになぞらえて、ジェネレータの親核種を Cow、娘核種を取り出す操作をミルキングという。
原子炉やサイクロトロンなどの放射性同位元素の生産装置がないところでも、ジェネレータからミルキングにより短寿命の娘核種を任意の時に、簡単に、純度よく、安定同位体を含まない状態(Carrier-free、無担体)に得ることができる。本実習では、プラスチック製使い捨て注射器にイオン交換樹脂を充填してジェネレータカラム(イオン交換カラムクロマトグラフイ)を製作する 1)。
実習では、あらかじめ製作した小型137Cs/137mBa ジェネレータを用いて、ミルキングにより溶出される137mBa の放射能と溶出後にカラム内に生成する137mBa の放射能の時間増加(成長)を調べる。実習の前に放射平衡やジェネレータの原理・構造について予習しておく必要がある。
図1. 137Cs/137mBaの崩壊図
使用機器:NaI(Tl)シンチレーション測定装置
使用器具:カラム(1mL のプラスチック製使い捨て注射器)、小型ゴム栓、注射針付き注射器(1mL のプラスチック製使い捨て注射器)、プラスチックチューブ、スタンド
放射性同位元素:137Cs/137mBa 無担体 0.1mol/L 塩酸(3.4 kBq 程度)
充填剤:ニッケル-フェロシアン化陰イオン交換樹脂(Amberlite IRA-904 CL(東京科研)+ 塩化ニッケル(II)六水和物 + ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム三水和物)2,3)
溶離液:純水
下限数量(137Cs):放射平衡中の娘核種(137mBa)を含め 10 kBq
表1. 137Cs/137mBaの改変と性質
(1)NaI(Tl)ウエル型シンチレーション測定装置の主電源スイッチを入れた後、0.662MeVの消滅放射線を計測するためのエネルギーウインドウと印加電圧を設定する。
(2)自然計数を 10 分間測定する。
(3)0.1M 塩酸中の137Cs/137mBa 無担体(3.4 kBq)を吸着したカラム(充填剤 0.2 mL)(図 2)をスタンドに垂直に固定する。
(4)使い捨て注射器を使い 1 mL の純水を取る。これをカラムの上部からゆっくり滴下して、137mBa を含む溶離液をカラム直下のプラスチックチューブに回収する。
(5)速やかにカラムを取り外す。プラスチックチューブに収納した後、NaI(Tl)ウエル型シンチレーション測定装置にセットする。
(6)137mBa の溶出後、0 分、1 分、2 分、3 分、4 分、5 分、6 分、7 分、8 分、9 分、10分、11 分、12 分、13 分、14 分、15 分まで各 1 分間放射能を測定し、測定開始時刻とともに記録する。
図2. 137Cs/137mBaジェネレータと溶離液
(1)得られた測定値は自然計数を補正して、137mBa の放射能(縦軸)と 137mBa 溶出後の経過時間(横軸)関係を方眼用紙上にプロットする(図 3)。
(1)[A](6)で得られた 137mBa の放射能と 137mBa溶出後の経過時間の関係を放射平衡の式から得られた 137mBa の放射能の成長曲線と比較して考察せよ。
(2)137Cs と 137mBa の関係のように放射平衡にある核種の組合せには他にどのようなものがあるか。特に核医学における診断や治療への応用について調べよ。
(3)放射能は壊変に伴って減少する。カラム中の 137mBa の放射能が増加(成長)する理由を考察せよ。
(1)NaI(Tl)ウエル型シンチレーション測定装置の主電源スイッチを入れた後、0.511MeVの消滅放射線を計測するためのエネルギーウインドウと印加電圧を設定する。
(2)自然計数を 10 分間測定する。
(3)0.1M 塩酸中の 137Cs/137mBa 無担体(3.4 kBq)を吸着したカラム(充填剤 0.2 mL)(図 2)をスタンドに垂直に固定する。
(4)使い捨て注射器を使い 1 mL の純水を取る。これをカラムの上部からゆっくり滴下して、137mBa を含む溶離液をカラム直下のプラスチックチューブに回収する。
(5)溶離液の入ったプラスチックチューブに栓をして、NaI(Tl)ウエル型シンチレーション測定装置にセットする。
(6)137mBa の溶出直後 0 分、1 分、2 分、3 分、4 分、5 分、6 分、7 分、8 分、9 分、10分、11 分、12 分、13 分、14 分、15 分まで各 1 分間放射能を測定し、測定開始時刻とともに記録する。通常、カラム充填剤 0.2mL では、溶離液 1 mL 中に 70-80 %の137mBa の溶離収率が得られる。
(1)得られた測定値は自然計数を補正して、137mBa の放射能(縦軸)と 137mBa 溶出後の経過時間(横軸)関係を、方眼用紙(図 3)と縦軸が対数で横軸がリニアの片対数方眼用紙上にプロットする。
(2)溶離前のカラム中の 137mBa の放射能と溶離液中の 137mBa の放射能から溶離収率を算出する。
図3. 137mBaの減衰曲線と成長曲線
(1)[データ処理](1)で得られた放射能と経過時間の関係から、137mBa の半減期を求めよ。
(2)ジェネレータに用いられる充填剤は親核種と娘核種に対してどのような性質を持つことが求められるか。137Cs と 137mBa の充填剤への結合性を例に説明せよ。
(1)Sasaki T., Aoki K., Yamashita R., Hori K., Kato T., Saito M., Niisawa K., Nagatsu K., Nozaki T., Development of an externally controllable sealed isotope generator. Appl. Radiat. Isot., 133:51-56, 2018.
(2)Nagai T., Watari K., An improved 137mBa generator. J. Nucl. Med.,9(12):608-609, 1968.
(3)Watarai K., Imai K., Izawa M., Isolation of 137Cs with copper ferrocyanide-anion exchange resin. J. Nucl. Sci. Tech., 4(4):190-194,1967.