放射性セシウムのイネへの取り込み

目次

実験目的
導入
主な準備物
実験操作
データ処理
考察への手引き


実験目的

根圏から根を介して植物体内へ取り込まれる放射性セシウムの挙動を理解するために、オートラジオグラフィ法による視覚的な局在解析と、ガンマカウンタを用いた定量的な解析を組み合わせた検証を行うことは極めて有効である。本実習では栽培時の栄養条件が異なる植物を用いて、植物体内に取り込まれる放射性セシウムの挙動の違いを明らかにする。

導入

植物におけるセシウムの吸収・輸送は、植物にとっての必須元素であるカリウムを主に輸送する輸送体を介して行われるとされている。生育期間の一部を低カリウム環境で栽培することによりカリウム飢餓状態におかれた植物は、根圏から積極的にカリウムを吸収するために根においてカリウムの取り込みを担う輸送体を高発現させる。このような条件下でセシウムが根圏に存在すると、カリウムを十分に摂取している植物に比べて多量のセシウムが吸収される。本実習では植物がセシウムを吸収する過程を単純化して検証するために、水耕栽培によるトレーサー実験を行う。

主な準備物

使用器具・機器

イメージングプレート、イメージングプレートリーダー、ガンマカウンタ、プラスチック
チューブ、水耕栽培用の器具
主要試薬:137CsCl、水耕液(1/2 木村氏液)

植物

イネ

実験操作

(1)イネ種子を水道水に浸し、30℃で3 日間静置する。

(2)イネが発芽したら、発泡スチロールを用いて水耕液に浮くように加工したプラスチックネットに移し、明期16 時間、暗期8 時間、30℃の環境下で栽培する。水耕液は3日毎に新しいものに交換する。以下水耕液はすべてpH 5.6 とする。

(3)約2 週間イネを栽培した後、一部のイネを、カリウム濃度を1/10 にした水耕液に移してさらに5 日間栽培する。

(4)キャリアとして0.1 μM となるように非放射性CsCl を添加した水耕液をカリウム濃度別に2 種類(通常および1/10 濃度)準備し、それぞれに20 kBq / 50 mL になるよう137CsCl を添加した後、50 mL ずつ容器に分注する。

(5)個々の容器に各条件下での比較ができるようにイネを一個体ずつ移し、明期16 時間、暗期8 時間、30℃の環境下で48 時間栽培する。

(6)放射性セシウム処理が終了したら、放射性セシウムを含まない水耕液で根を洗浄し、水分をふき取った後にイメージングプレートに乗る大きさの透明な袋に入れる。

(7)袋に入れたイネを、葉や根が重ならないように注意しながらイメージングプレートに曝露し、1 晩静置する。

(8)イメージングプレートのリーダーの取り扱い説明に従って、オートラジオグラフィ像を取得する。

(9)得られた画像を比較し、同一個体内あるいはカリウム欠乏処理やセシウム処理水耕液中のカリウム濃度の差により放射性セシウムの蓄積量が異なる部位を選択し、プラスチック製のチューブに封入する。残りの部位や残った水耕液も同様にプラスチックチューブに封入する。

(10)ガンマカウンタの取り扱い説明に従って、各サンプルに含まれる放射性セシウム量を定量する。

(11)測定終了した植物サンプルは70℃で2 日間乾燥させ、乾燥重量を測定する。

データ処理

(1)部位ごとに蓄積された放射性セシウム量を求め、当初水耕液に含まれていた20 kBqの放射性セシウムがどのように分配されたかを計算する。

(2)部位ごとに乾燥重量当たりの放射能(Bq / g)を求める。

考察への手引き

(1)放射性セシウムを多く蓄積する部位があるかどうか観察する。

(2)放射性セシウム処理溶液中のカリウム濃度の差により、植物に取り込まれるセシウムの量が異なるか比較する。

(3)カリウム欠乏処理による放射性セシウム吸収量、濃度の変化について比較する。