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薬物のヒトにおける経口吸収率をin vitroから予測する実験系として、Caco-2細胞を用いた透過性試験が実施されている。Caco-2細胞はヒト結腸癌由来の細胞株で、培養すると小腸上皮細胞に似た単層の細胞層を形成する。
さらに薬物を細胞内から内腔側(apical側)に排出するP-glycoprotein(P-gp)などのトランスポーターも発現していることが知られている。
この細胞をトランスメンブレン上で培養し、apical側に薬物を添加し、基底膜側(basal側)の溶液をサンプリングすることにより、以下の式に従って見かけの透過係数(Papp)を算出する。このような実験において評価したPappは、多くの薬物においてヒト経口吸収率と相関することが明らかとなっている。
Papp(cm/sec)= (dQ/dt) / ( C0×S)
dQ/dt: 透過速度(単位時間当たりにbasal側に出現する薬物量 nmol/sec)
C0: Apical 側の薬物の初濃度(μmol/L)、S: 単層膜の表面積
マイクロピペットおよびチップ(各種)、アスピレーター 、24well 平底プレート、トランスウェルメンブレン(上記平底プレートに適合するもの)、バイアル瓶、液体シンチレーションカウンター、CO2 インキュベーター、プレートシェーカー 、恒温槽、pH メーター、経上皮電気抵抗測定装置、電子天秤、純水製造装置
・Dulbecco's modified Eagle's medium(DMEM)培地(非働化した FBS10%、ペニシリンストレプトマイシン含有)
・Hank's balanced salt solution(HBSS)
・4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethansulfonic acid(HEPES)
・BSA
・グルコース
・PBS(-)
・シンチレーションカクテル(HIONIC-FLUOR)
・[3H]atenolol 溶液(千代田テクノル MT-1724)、[3H]propranolol 溶液(レビティNET515)、[14C]mannitol 溶液(千代田テクノル MC-203)等
・水酸化ナトリウム
・塩酸
・DMSO
・tripsin-EDTA 液
・エタノール
(1)Caco-2 細胞はフラスコ(75cm2)を用い、37℃、CO2 濃度 5%のインキュベーター内で培養する。(詳細な培養法については成書を参照のこと。2~3 日ごとに培地を交換し,継代はコンフルエントに達する前に行なう。)
(2)上記フラスコ内の培地を廃棄する。
(3)10mL の PBS(-)をフラスコに添加し、細胞表面を洗浄する。(1 回)
(4)37℃設定の恒温槽内で加温した tripsin-EDTA 液 5mL をフラスコに添加。
(5)3 分程度静置した後、フラスコを軽く叩き、細胞を剥離する。
(6)フラスコに培地 10mL を添加して細胞を懸濁し、50mL 遠心チューブに回収する。
(7)フラスコを培地 10mL で洗浄して、上記 50mL 遠心チューブに回収する。
(8)生細胞数を計測し、24well のトランスウェルの膜上に 5.0×104cells/well の濃度で播種する。
(9)37℃、CO2 濃度 5%のインキュベーター内で 2~3 日ごとに培地を代えながら培養し、播種後 21~23 日経過したものを実験に使用する。
(1)HBSS/HEPES 緩衝液:HBSS 1000mL に対しグルコース 2.504g および HEPES2.383g の割合で加えて溶解する。Apical 側の緩衝液は、1mmol/L の塩酸を少量滴下して pH6.5 に調整する。Basal 側の緩衝液は、HBSS/HEPES 緩衝液 10mL に対し、BSA を 0.4g の割合で加えて溶解し、1mmol/L の水酸化ナトリウムで pH7.4 に調整する。
(2)Atenolol,propranolol 等は、まず DMSO に溶解して 0.5mmol/L 溶液とする。次にHBSS/HEPES 緩衝液で最終濃度が 1μmol/L(DMSO 濃度 0.2%)となるよう調整する。それぞれの 3H 標識化合物は、比放射能や透過性を考慮し、あらかじめ適量をガラスバイアルに添加し、窒素気流下で溶媒を乾固する([3H]の原液を 1000 倍希釈する。)。
(3)[14C]mannitol 溶液は、90%エタノール溶液を 5μL 採取し、窒素ガスを吹き付け乾固し、HBSS/HEPES 緩衝液(0.2%DMSO 含有)を 8.5mL 加えて溶解する(mannitol最終濃度 1μmol/L,DMSO 濃度 0.2%)。
(1)Apical 側の培地を吸引によって取り除いた後、37℃に加温した HBSS/HEPES 緩衝液(0.2%DMSO 含有)を 300μL 添加し、basal 側にも HBSS/HEPES 緩衝液(0.2%DMSO 含有)1000μL に置換する。その後、37℃で 30 分間プレインキュベーションする。
(2)プレインキュベーションの後、経上皮電気抵抗測定装置(例:Milli-cell ERS)を用いて膜抵抗値を測定する。300Ω×cm2 以下のものは除外する。
(3)Apical 側の HBSS/HEPES 緩衝液を吸引によって取り除いた後、37℃に加温した適量の 3H 標識化合物を含む atenolol、propranolol または[14C]mannitol 溶液を 300μL添加する。
(4)続いて basal 側の HBSS/HEPES 緩衝液(0.2%DMSO 含有)も新しい 1000μL に置換する。その後、37℃で 0.5 、1 、1.5 および 2 時間インキュベーションする。
(5)0.5 、1 、1.5 および 2 時間における apical 側および basal 側の緩衝液を各々10μL及び 300μL ずつ採取し、バイアル瓶に移す。各時点において、basal 側は新鮮なHBSS/HEPES 緩衝液(0.2%DMSO 含有)1000μL に交換する。apical 側は液量を一定にするために、新鮮な HBSS/HEPES 緩衝液を 10μL 添加する。
(6)測定用試料を採取したバイアル瓶にシンチレーションカクテルを3mLずつ添加して、液体シンチレーションカウンターにより 5 分間測定する。
(7)バックグラウンドとして,バイアル瓶にシンチレーションカクテルのみを 3mL 添加したものを液体シンチレーションカウンターにより 5 分間測定する。
(8)細胞内に残存する放射能を測定する場合、(5)で apical 側の緩衝液を除去した後のトランスウェルに、1mol/L 水酸化ナトリウム 150μL を添加し、37℃で 30 分間インキュベーションすることによって細胞を可溶化する。1mol/L 塩酸 150μL を添加することによって中和し、全量をバイアル瓶に採取する。シンチレーションカクテルを 3mLずつ添加して、液体シンチレーションカウンターにより 5 分間測定する。
(9)(Apical 側、細胞内、)basal 側の放射能から各時点の透過薬物量を求め、プロットの直線領域の傾きから透過速度を算出する。
Papp を求める式は、basal 側の薬物量は直線的に増加するという仮定に基づいている。しかし、薬物によって apical 側に添加してから basal 側に出現するまでに lag time が存在したり、basal 側の薬物濃度が直線的な増加の後、頭打ちになったりする場合がある。このようなケースの要因として考えられることは何か。