文字サイズ: |
1)代表的なRIの計測方法
...液体シンチレーションカウンタ、ガンマカウンタ、イメージングアナライザについて
2)液体シンチレータ用のシンチレーションカクテルの選択
...シンチレータ、試料に応じた液体シンチレーションカクテルの選択について
3)液体シンチレータ用の試料の調整法
...液体シンチレータ用の試料の調整法について
4)液体シンチレーションカウンタ、ガンマカウンタ校正用スタンダードの選択
...内部標準、アンクエンチドスタンダード、クエンチドスタンダード、インターナルスタンダードキット等について
5)液体シンチレーションカウンタ計測用バイアルの選択
...ガラスバイアル、プラスチックバイアルについて
6)液体シンチレーションカウンタ、ガンマカウンタ計測の際の注意点
...計数効率、計数効率補正、計測時間について
7)計測データの評価
...バックグラウンドの扱いについて
※本ページはRI計測のためのQ&Aを参照して作成しました。
最終的に得られた試料中のRIの活性を定量するには、β線を放出するRIの場合には液体シンチレーションカウンタを、γ線を放出するRIの場合にはガンマカウンタを使います。また、放射能分布を計測したい場合にはイメージングアナライザを使います。まずは基本となるこれら機器の特長を抑えましょう。
放射線と物質との相互作用の中で励起された原子や分子が基底状態に戻る際、特定の波長の光(蛍光:Scintillation)を放出します。このような物質を蛍光物質(シンチレータ:Scintillator)といいます。このシンチレータには無機または有機物質があり、特に後者をトルエンやキシレンのような有機溶媒に溶かし、β線を放出するRIを含む試料と混合溶解することによって効率よくβ線のエネルギーを蛍光に変換させ、さらに光電子増倍管(PMT)で電気信号に変換して放出されるβ粒子の数を計測できます。この時、試料バイアルを2本のPMTで計測する事により、PMTから発生するノイズと目的とする試料からの蛍光を区別する事が可能となり、バックグラウンド値を低減できます(同時計数法)。特に、LSC法は以下に示すような長短所を持ち、α線や低エネルギーβ線を放出するRIの計測に利用されていますが、試料の化学組成によってクエンチング(消光)を生じることがあります。また、近年、LSCによるチェレンコフ効果(*)を用いた計測も行われています。
*チェレンコフ効果:透明の液体(例えば、水)の中を荷電粒子が同じ媒体中の光速度より速く運動する際、前方方向に青白い光が観測されます。この光は発光過程が物理的過程で発生するので、化学クエンチングとは無関係です。したがって、化学クエンチングを生じる水やアルコールを媒体として用いることができます。一方、色クエンチングを受けやすく、計数効率も低くなります。また、しきいエネルギー以下の電子、つまり、低エネルギーβ線の計測には向きません。
LSC法の検出器は、液体シンチレータによって生じる光エネルギーを受け取って増幅(光電子増倍管)し、感度の高い検出を行います。計測の際、計測ウインドウや印加電圧などの条件を計測するRIに合わせて下さい。
①バイアル用液体シンチレーションカウンタ
②マイクロプレート用液体シンチレーションカウンタ
3H、14C、32P、35S等
①放射線の自己吸収がない。
②計測するRIの周囲はシンチレーターで囲まれており、放出された放射線のエネルギーが効率よく検出部分に吸収され、4π検出が可能である。
③試料中のβ粒子の放出率を計測することによって放射能強度を計測できる。また、蛍光強度の分布から最大エネルギーを求め、試料中のRIを決定できる。
①試料の化学的性質、共存物などによってクエンチング(消光)現象が生じ、検出効率が低下する。
②試料によってはケミルミネッセンスが生じることがある。
・計測しようとするRIにあったウインドウで計測します。一般的にLSCが計測プロトコールを記憶しているので、測ろうとするRIにあったプロトコールを選択します。
・計測時間は各自の好みですが、通常の計測では1~5分/試料。統計的な誤差を少なくしようとする場合は、総カウント量を揃えてもよいでしょう。ただしその場合は、放射能量の少ない試料は極端に計測時間が長くなってしまうので、計測時間の上限をあわせて設定するようにします。
・LSCは定期的に校正します。校正用試料の計測とクエンチングスタンダード計測は、数ヶ月に一度は実施します。
・バックグラウンドは、なるべく同じ種類の非RIの試料を同じように処理して調製することが望ましいです。ただし、臓器・組織試料のバックグラウンドを全ての種類で調製することは非効率的なので、非RIの血液で代用する場合が多いです。
・LSCの定量限界値の設定は困難であるため、各施設の主観で決めている場合が多いです。通常、バックグラウンドの2倍を超えない試料は、定量限界未満と判断します。
ガンマカウンタは液体シンチレーションカウンタ(LSC)と同様に放射線とシンチレータとの相互作用による発光(シンチレーション)を観測することにより、放射線の数や強さを計測しています。ガンマカウンタに用いているシンチレータは潮解性のある固体であるため、シンチレータを金属で覆う必要があることから、γ線のみの計測となっています。また、LSCとは異なり計測試料にシンチレータを混ぜる必要が無いことから、ほとんどの試料は無調整で計測ができます。ただし、試料と検出器の幾何学的な位置関係により計測値が変化する事があるため、位置条件を一定とする必要があります。
ガンマカウンタの検出器は、RIから放出される光子が固体シンチレータにエネルギーを与えることによって生じる蛍光を光電子に変換し、増幅(光電子増倍管)することにより感度の高い検出を行います。計測の際、計測ウインドウや印加電圧などの条件をRIに合わせて下さい。
51Cr、125I
イメージングアナライザは二次元に分布しているRIからの放射線を検出することで画像データとして取得できます。放射線のエネルギーを特殊な物質で作られたイメージングプレート(IP)に蓄えさせ、この蓄えたエネルギーを検出します。
ある種の物質は、RIの放射線エネルギーにより発光(蛍光)する性質を持ち、シンチレータと呼ばれます。このシンチレータからの発光を測定することで、放射線を検出することができます。シンチレータには固体ものもと液体のものがあり、本ガイドで紹介する液体シンチレーションカウンタで使用するカクテルにはシンチレータが添加されています。
計測する際には、試料をトルエンやキシレンなどの溶媒に溶解し、次にシンチレータとして、発光効率を上げる役割を持つ第1溶質、放出された光の波長を変える役割を持つ第2溶質を加えたのちに機器で計測します。ですが、実際には計測する試料に対応した溶媒、溶質、添加物をまとめた市販の液体シンチレーションカクテルを用います。
液体シンチレーションカクテルの詳細な原理についてはこちらから((株)レビティジャパンの英文資料)
試料の調整の方法についてはこちらから((株)レビティジャパンの英文資料)
・液体シンチレーションカウンタ(LSC)は、放射能量が多くなると数え落としを起こすので、バイアルに試料を入れる時点で、ある程度予測し、適切な値となるように調節する。
・通常、数十万dpmまでと考えておきます。
・計測の結果、数百万dpmを超えて、、数え落としの可能性が考えられた場合は、調製した試料をいくつかに分割して計測し、後で値を合計すればよいでしょう。
・クエンチング、ケミルミネッセンスが最小限となるように配慮します。LSCの出力結果を見て、各機器特有のクエンチングパラメータやケミルミネッセンスの警告表示などを確認します。
・試料調製直後は安定していないため、しばらく放置してから計測するようにします。
・LSCを汚染させないように、バイアル表面にRIが付着しないように試料調製を行います。LSCにかける前に、一度バイアルを拭く習慣をつけるとよいでしょう。
液体シンチレーションカウンタ、ガンマカウンタは校正が必要になります。
校正に使用するスタンダードは実験や機器ごとに適切なものを使用するようにしてください。
液体シンチレーションカウンタで使用するバイアルの素材等によって計数効率が異なる場合があるため、
行う実験によって適切なバイアルを使用してください。
ここでは、液体シンチレーションカウンタ、ガンマカウンタで計測条件を設定する際のヒントを示します。
放射性試料を計測したとき、崩壊率(dpm)に対する計数率(cpm)の比を「計数効率」といいます。(計数効率=計数率(cpm)/ 崩壊率(dpm))
主なRI | 計数効率の目安 |
3H | 30~50 % |
14C/ 35S | > 80 % |
32P | ほぼ100 % |
125I | 75~80 % |
・放射能量の絶対量を求めるためには、液体シンチレーションカウンターによる計数値(cpm)を適切な計数効率で補正し、崩壊率(dpm)を求める必要があります。内部標準法、チャンネル比法、外部標準線源法、外部標準チャンネル比法があります。
・液体シンチレーションカウンターの多くは外部標準チャンネル法による補正によって自動換算を行っています。
・標準の自動計数効率補正を行った場合、クエンチングが大きい試料については正しい値が得られないことがあります。
・計数率(cpm)が低い試料の場合、1分計測では誤差が大きく正しい値が得られないことがあります。計数値の統計的取扱は、総計数=N±√Nですので、たくさん数えれば数えるほど誤差は小さくなります。
・統計的に数値の持つ誤差をなるべく統一するためには、計測は総計数が同じ値になるまでの時間を行う方がよいと考えられます。ただし、計数率の低い試料では計測時間が著しく長くなりますので、常識的な時間(20min.程度)を設定する必要もあります。
同時に含まれるRIにより、計数値に与える影響を考慮しなくてはいけません。
LSCで測定して、予測されるカウント数と大きく異なるカウント数が得られることがあります。カウントが高い場合は化学ルミネセンス、低い場合はクエンチングの影響を検討してください。
ケミルミネッセンスは、試料の化学反応により生じます。アルカリ溶液(可溶化剤の第四級アミン水酸化物や、組織溶解液として使用される水酸化ナトリウム水溶液など)や、過酸化物が混在しているときに良くみられ、以下などが対策です。
・溶液をpH 7以下にする
・加温により化学反応を早く終了させてから測定する
・ケミルミネッセンスに耐性のあるシンチレーションカクテル剤を使用する
クエンチングの主な原因は、酸素やサンプルから生じる化学クエンチングと色クエンチングに分けることができます。クエンチングはβ線→発光→PM管での検出の各段階で起こります。発光前は酸素や化学クエンチング、発光後は色クエンチングが生じます。
化学クエンチング:酸素や化学クエンチングを排除することが重要です。試料中にクエンチャになり得る物質を含まないようにする必要があります。また溶液中の溶存酸素量が多いとクエンチングの影響が大きくなりますが、溶存酸素を除いても、一定時間空放置すると溶存酸素量が一定に戻ってしまう(平衡化)ため、ライフサイエンス分野の研究の場合にはそのまま測定することがほとんどです。
色クエンチング:一般的に用いられる液体シンチレータの発光波長は350~450 nmです。そのため、試料が黄色ないし赤色に着色していると影響が大きく、青色ではあまり影響がありません。タンパク質を酸処理したり、FeCl3を使用した試料などは淡黄色になるため注意が必要です。またヘモグロビンやポルフィリンなどはごく微量でも影響が大きいため、脱色(漂白)操作が必要です。過酸化水素や塩素水を用いて試料を脱色させますが、脱色剤自体さまざまなクエンチャとして作用するため、その後の処理が必要です。
測定用バイアルを日光や紫外線に曝した場合、光エネルギーがバイアルに吸収され、暗所で放出されます。これを燐光と呼び、この影響でカウントが高くなります。この場合には、バイアルを一定時間暗所に置くと影響が見られなくなります。
計数率(cpm)が高いときは、検出器の不感時間(分解時間)による数え落としを考慮しなくてはいけません。10000000 cpm を超えたら要注意。数十万 cpm 以内で計測できるよう試料調整をした方がいいでしょう。
試料からの放射線によらない計数値。原因としては、計測器によるもの、自然放射能によるもの、試料の材質によるものなどがあり、通常は30cpm 程度です。
シンチレータに試料を入れずに複数計測し、平均した値を BG とするとよいでしょう。
BG に近い計数値は、有意な値であるか否か検討が必要です。また、計測時間が異なれば計数精度も異なります。
公益社団法人日本アイソトープ協会
医薬品・試薬課
TEL:03-5395-8033
FAX:03-5395-8055 (0120-012895 注文専用)
Mail:shiyaku★jrias.or.jp
※ 上記の「★」記号を「@」記号 に置き換えて下さい。
お問い合わせフォームはこちら