基礎的な定義

1)標識化合物の表記例
2)標識位置
3)標識化合物の分類
4)放射能の単位
5)比放射能・放射能濃度
6)純度

1)標識化合物の表記例

化学名の後には、カンマに続き括弧があり、括弧内には放射性標識の位置や種類が記載します。このほかにも様々な表記方法があります。

例:Glutamic acid, L-[14C(U)]-

2)標識位置

アルファ/ガンマ位に32P標識したATPの構造を以下に示します。赤色のリン酸(P)は標識位置を示します。

3)標識化合物の分類

標識の状態によって以下のように分類されます。放射性試薬を選ぶ際の参考にしましょう。

特定(S)標識化合物

標識位置が明らかな場合は、その位置が数字で示されます。特定の位置への標識率は95%以上のものを指します。
例:Ornithine, L-[1-14C]-

名目(N)標識化合物

標識位置がある程度予測されますが、特定(S)標識化合物ほど明確でなく、特定位置への標識率が95%未満の場合を指します。
例:Estradiol, [2,4,6,7,16,17-3H(N)]-

全般(G)標識化合物

様々な位置にランダムに標識されていますが、標識位置にかたよりがみられるものを指します。
例:Daunomycin, [3H(G)]-

均一(U)標識化合物

すべての位置にほぼ均一に標識されているものを指します。
例:Glutamic acid, L-[14C(U)]-

4)放射能の単位

Bq(ベクレル)

放射能の強さを表す単位です。1 Bq = 1秒間に放射線を出して変化する原子の数のことです。また、dps(decay per second)と表記する場合もあります。

dpm

上記のBqは1秒間あたりですが、dpm(decay per minute)は1分間あたりに放射線を出して変化する原子の数のことです。

Ci(キュリー)

特に欧米ではBqの代わりにCiという単位を用いる場合も多く、海外製品はCiで記載されている場合がありますので知っておきましょう。
例)
1Ci = 3.7×1010Bq= 2.22×1012dpm
1μCi = 3.7×10Bq= 2.22×10dpm

5)比放射能・放射能濃度

標識化合物には、RIで標識されていない非標識化合物も含まれます(含まれていないものは無担体(キャリアフリー)と呼びます。)。そのため、標識化合物が多く含まれている方が実験に都合がよく、計測感度が向上します。
着目する化合物がどのくらいRI標識されているかを表すために比放射能(SA)が定義されています。また、比放射能と似たものとして放射能濃度があります。比放射能は化合物とその標識化合物との量の関係を表しているのに対し、放射能濃度は溶媒も含めた試料中の標識化合物の量として表されます。

比放射能

比放射能(SA)は、どのくらいの放射能があるかを示す値であり、使用する試薬を決定や最適なデータを取得のための重要な要素です。比放射能は、Bq/mmolやBq/mgで表され、低比放射能の場合、RI標識化合物に比べ、非標識化合物の割合が高くなります。一般的には比放射能が高い方が検出が容易なため実験には便利です。しかしながら、分解が早い、同一放射能量中ではRI標識化合物の分子数が少なくなる、などのデメリットもあります。

Bq/mgからBq/mmolに、またはその逆に変換する場合は、RI自体の分子量を使用して計算します。

RIをバイアルに包装する前に未標識化合物を分離・精製しない限り、放射能崩壊が進行するにつれてRI標識化合物の比放射能は経時的に減少します。しかし、RIがキャリアフリー(同じ元素の非標識化合物を含まない状態)の場合、RIが崩壊によって減少しても、比放射能は経時的に変化しません。これは、崩壊の後にRIが別の元素になるためです。(例:90Yは崩壊して90Zrになります。)。

また、RI標識化合物に対する比放射能は、RIに対する理論的な最大比放射能よりも高くなる場合がありますが、これは化合物が2つ以上の位置で標識されているためです。

さらに、ラベルしていない化合物を添加することで、比放射能を変えることもできます。比放射能が高い標識化合物を使うと、一般に測定感度は向上しますが、細胞や動物の正常な代謝機能が阻害されたり、定量が不正確になりやすい等の問題もあります。

最大比放射能

Bq/mmol、Bq/mg等で示される放射能の理論的な最大値のことです。したがって、溶液中の分子のすべてがRI標識されている場合の値になります。

放射能濃度

放射能濃度は、水や空気あるいは金属など、物質の単位体積または単位質量あたりの放射能を意味し、Bq/ml、Bq/mgなどで表されます。溶媒にRIが溶解している場合は、Bq/mlなどと表記されます。購入する放射性試薬の選定の際に必要になる数値です。

また、放射能濃度はモル濃度(µM=単位体積あたりの標識および非標識生成物両方の総モル量)とは異なるものですが、モル濃度も試薬選定には大切な値です。放射能濃度からモル濃度を求めるためには、比放射能(SA)を用いて計算します。

放射能濃度とモル濃度は線形関係にあります。例えば、以下の製品の場合は比放射能は同じですが、放射能濃度とモル濃度は異なりますので、自身が目的とする実験に合わせた試薬を選定しましょう。

比放射能、放射能濃度の記載例

以下に32P-UTPの製品例を示しますが、製品によって比放射能や放射能濃度が異なるラインナップがありますので、製品選びの際は参考にします。

32P-UTP 比放射能(Bq/mmol) 放射能濃度(mCi/mL) モル濃度
製品A 800 Bq/mmol 10 mBq/mL 12.5 µM
製品B 800 Bq/mmol 20 mBq/mL 25 µM
製品C 800 Bq/mmol 40 mBq/mL 50 µM

6)純度

標識化合物の純度については、対象によって以下の3つがあります。

化学的純度

化学的純度=着目する化合物量(RI標識+非標識)/全体の化合物量

RI標識化合物には、着目するRI標識化合物以外にも放射性崩壊での生成物等の不純物が含まれます。

放射化学的純度

放射化学的純度=着目する化合物の放射能/全放射能

目的と異なる化合物にRI標識されていたり、RI標識化合物自身が分解したりした場合に不純物となります。

放射核種的純度

放射核種的純度=着目するRIの放射能/全放射能

対象とは異なるRIが不純物として入っている場合があります。